コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第5回 関西編(2)

2005/05/02 16:05

週刊BCN 2005年05月02日vol.1087掲載

 関西の情報サービス産業の地位低下が続いている。経済産業省の「特定サービス産業実態調査」によれば、全国に占める関西(近畿)のシェアは、右肩下がりの基調から抜け出せないままでいることが明らかだ。たとえばソフト産業は、これまで幸いなことに日本国内を相手にするだけで食べていくことができた。その半面、海外を相手に考えてこなかったために、海外でのプレゼンスはないに等しい。経済や産業のグローバル化が進むなかで、大手ベンダーがコスト削減を目的に海外でのオフショア開発を進めれば、たちまち基盤を失ってしまう。関西もこの轍を踏んでいるが、独自性へのこだわりは強い。(光と影PART IX・特別取材班)

大手・中小とも独自性に勝機見出す関西のIT産業

■組み込み系開発案件は好調に推移

 「残念ながら、地方のソフト産業が日本国内の市場を相手に、独自開発の製品を展開しようとすれば、販売窓口となる東京に進出するしかない」とは、経済産業省近畿経済産業局地域経済部の森畑通夫・情報政策課長。関西に限らず、首都圏以外の地方は全く同じ状況に陥っている。民間企業はもちろん、地方自治体までが大手ベンダーとの一括契約するという慣行的な商習慣が残っているため、地方のソフト開発会社やシステムインテグレータ(SI)は結果的に取り残されてしまう。 ITの進展で、インターネットを活用した商品販売は全国どこででも行えるようになっているにもかかわらず、IT産業は首都圏への一極集中を余儀なくされているという皮肉だ。

 このため、関西から出発した企業であろうとも、次の成長ステップを目指すなら、首都圏に拠点を移すこともやむを得ない。他の地域を含め、インキュベーターとしての役割を求められるなら、それに徹することも1つの方法。もっとも、これはIT産業に限らない。どんな産業であれ、環境の変化に対応してこそ、次の時代に生き残る権利を得る。そして、それが日本の経済や産業の発展に資するなら、トータルで考えれば、前進といえる。

 もちろん、その状況を多とし、立ち止まってしまうわけにはいかない。次の環境変化に対応するための準備はしておかねばならない。関西の場合、ターゲットとなるのは、情報家電やデジタル家電という地域特性を生かし、一層の底上げを図るための組み込み系ソフトの分野だ。従来からシステムハウスの集積が進んでいただけに、ポテンシャルは高い。

 「関西のIT産業は厳しい」という認識は誤りではないが、実は同時に「組み込み系の開発案件は好調」ということも成り立っている。ソフト開発事業者に取材しても「携帯機器やデジタル家電向けの受託は堅調」と口を揃える。しかし、「仕事があるだけに、次のブレークスルーにつながる人材育成が進まない」(森畑課長)という側面があるのも事実。前に進むためのインパクトを作り出すため、今後は情報系クラスター振興プロジェクトで成果を挙げることに重点を置いている。

 「2002年夏から動き出し、会員企業は増えたが、これからは特色を出す段階にきている。ITと他分野の融合領域で新しいヒューマン・インタラクションを生み出すことを目指す。大学などの教育機関とも連携し、魅力ある産業であることを示さねば。情報系の学部を卒業した人が、みんな自動車メーカーを志望するようでは、中国や韓国に勝てない」(森畑課長)との危機感もある。

 では、今後の関西の情報産業が独自性を発揮できる領域は限定的であるか、というと、必ずしもそうではない。業務系や基幹系は大手ベンダーが先頭に立って引っ張っているのは間違いない。その点では、関西の情報産業は「従」の位置にある。しかし、その大手ベンダーでさえ、「関西の特殊性」ということは指摘する。

■卸売り業界も最新のIT装備が不可欠に

 「従来の部分最適ではなく、全体最適を提供できるよう組織変更したが、関西支社だけは特殊。マーケット別に細分化しているのはここだけだ。それは、サービサビリティを高める必要があるからだ」というのは、NECの小川太三・執行役関西支社長。関西の産業構造は、中小企業が多く、とりわけ卸売業が多いという特性がある。投資環境が良好なわけではないが、「メーカーと小売業でのIT化が進み、商流が追いつかなくなってきたため、昨年あたりからこうした業種での設備投資が増えてきている」と見ている。 継ぎはぎで構築してきたシステムが、企業連携の中で無理が目立つようになった。生き残りを賭けた戦いが始まっているなかで、新たなIT投資が不可欠になってきているということだ。現状のシステムの維持費用からメスを入れ、統合を切り口に情報発信を行っていけば、市場の拡大余地は、他の地域に比べて大きい。実際、NEC関西支社では、大手卸売業のシステム更新で、04年度に2つの大型案件を獲得した。「今後は中小にも広がっていく」(小川支社長)と分析しており、05年度も関西支社として対前年度比5%の成長を目指している。

 それに向け必要となるのが、ビジネスパートナーの拡充。小川支社長は、ネットワーク系を中心に中立系も取り込んでいきたいと意欲的だ。「大手企業への対応では、全てを我々NECだけでまかなえるわけではない。我々のチームに入ってもらう必要がある」と指摘する。もちろん、そのためにはパートナーのスキルアップを図ることも重要。通信系の販売店が多いため、IT系のスキル向上を図る支援は不可欠だ。また、通信系でも、IPテレフォニーの進展で、顧客企業の対応窓口も従来とは様変わりしている。

 「関西におけるSIの成否は、他の地域に比べ、フェースツーフェースのコミュニケーションの占める要素が大きい。独自性が強い企業が多く、その一方で新しいもの好きでもある。そういう特性がある以上、NECとしても、全国一律の対応というわけにはいかない」(小川支社長)ということだ。

 もちろん、ROI(投資収益率)については至ってシビア。三井住友銀行グループの子会社である関西アーバン銀行は、キャッシュカードの安全性を高めるための「可変二重暗証システム」をNECと共同開発した。金融界では、生体暗証を用いるシステムの導入が一般化しているが、「半分の投資で同等の安全性が確保できる」(伊藤忠彦頭取)と胸を張り、他行が導入することにも応じる方針。実際、同じ関西のびわこ銀行などは関心を示している。「ベンダーとしては、付属システムが必要な生体認証の方がありがたいが、そういうビジネスでも対応できる力が必要」(小川支社長)と意に介さない。 関西におけるビジネスは、顧客も、ベンダーも、独自性がポイントということのようだ。
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