カタカナ語の氾濫が、マッカーサー以来、目に余るのは、皆さんご承知の通りである。実際、次の「××コン」が、英米語で何だったかをすぐ思いつける読者は、バッチイ原語(英米語)が達者だといってもよい。

 パソコン、リモコン、エアコン、ゼネコン、マザコン、ロリコン、ツアコン、ネオコン、ミスコン、ゴーコン…

 もちろん、ここからは、新しい「万葉集」や「奥の細道」は、金輪際生まれないばかりか、マッカーサーの思惑通り、一億総白痴化への道が待っている。

 情報分野で困るのは、専門語にカタカナ語が氾濫することである。例えば、ソフトウェア工学、とくに要求分析の分野で30年にわたって日本語化を図ってきた関係者の努力が一夜にして、挫折してしまう心配があることだ。

 最新の要求工学の専門訳書である『プロブレムフレーム ソフトウェア開発問題の分析と構造化』(マイケル・ジャクソン著)は、誤訳も少なく、良心的な出来栄えなのだが、訳語にカタカナを多用しているのと、訳語が一部専門用語のそれと異なっている点が、まことに惜しいのだ。

コンテクスト(文脈)
マシン(機械)
ドメイン(領域)
振る舞い(挙動)
イベント(事象)
コンサーン(関心事)
象徴(字句)
エンテティ(実体)
プロパーティ(属性)
particular(特殊な)
parallel(並列性)
concurrent(平行性)
 この訳書の姉妹編に『ソフトウェア博物誌』(アジソン ウエスレイ著)があるのだが、こちらは専門(漢字訳)語を基本とし、プロの訳書になっている。どちらも必読の姉妹書であるので、両方比較して読み込まなければならない事情にあって、ずいぶん余計な苦労が伴う。いっそ原著で読みたくなるほどだ。

 読むのに苦労を強いられる一例は左表の通り。カタカナ語などが新著、カッコ内漢字は旧著の訳語だ。

 マイケル・ジャクソンは、オックスフォード・ケンブリッジ流(漢字で書いてもいいのだが、若い方のためにカタカナにした)の精粋であり、視点子も以前訳書を上梓した行きがかりもある。新著訳はとても良心的ではあるが、カタカナ語課題の含意が依然として大きい例として、取り上げてみた。