ITから社会を映すNEWSを追う

<ITから社会を映すNEWSを追う>ITサービス業の不祥事

2007/09/24 16:04

週刊BCN 2007年09月24日vol.1204掲載

対岸の火事とせず

健全な発展のために

 内部統制、運営の透明性、情報の開示と説明義務──これは安倍政権の話ではない。底堅いIT化需要に加え、金融商品取引法(日本版SOX法)や証券電子化など情報サービス業にとってのプラス材料が控えている。経済産業省が先にまとめた7月の特定サービス産業動態統計でも、情報サービス業の売上高は前年同月比6.8%増と好調を持続している。にもかかわらず、株価が上昇に転じる気配はない。情報サービス業の企業自身も内部統制、運営の透明性、情報の開示と説明義務にきちんと対応しなければならない。(中尾英二(評論家)●取材/文)

 内閣改造で難局を乗り切ろうとした安倍晋三総理が、9月12日、唐突に辞任を表明した。国会で所信表明を行った直後、各党の代表質問を受ける1時間前のサプライズに、新聞もテレビも上を下への大騒ぎだった。

 自民党新総裁が正式に決まるのは9月23日で、首班指名、組閣に要する時間を勘案すると、今月いっぱいは国会が空転することはほぼ確実だ。このような事態を招いた責任論がかまびすしい。天下国家の一大事に関連づけるのは違和感がないでもないが、今回の混乱はITサービス業の説明義務や責任の取り方を改めて考えるきっかけになるだろうか。

■ライブドア事件が転機

 9月7日に経済産業省が公表した今年7月分特定サービス産業動態統計のうち、情報サービス産業の売上高は6394億1200万円で前年同月比6.8%増。うちソフトウェア開発業は4654億7400万円で8.4%増と全体の伸びを上回っている。産業界のIT化需要は堅調で、ソフト業各社は開発要員の確保に走り回っている。

 こういうなかで将来の不安材料は、北京オリンピック後に予想される中国経済の減速、都市銀行を中心とするシステム統合の終了などだが、影響が出るとしても2年後だ。当面の見通しとして業界の7割が「受注増」を予測し、それに対応するため「採用が進まない以上、外部委託を拡大するほかない」と半数以上が考えている。

 情報サービス産業協会(JISA)の関係者は、「それはそれとして、業界の“見える化”を図ることが急務」と警鐘を鳴らす。受発注の多重階層や不明朗な契約関係をすっきりさせ、価額決定のメカニズムを明確にして自らの役割を社会に認知してもらわなければ、業界の健全な発展はない、という意味だ。

 JISAの主張は「なるほど」だが、プライバシーマークを取得しながら個人情報漏えいを引き起こす企業が相次ぎ、今年3月末に通期決算を発表したITサービス関連企業の5社に1社が、何らかの形で決算短信を修正している。

 一国の首相がどんなに将来ビジョンを語り、理念を強調しても、閣僚の失言や不明朗な政治資金処理が足元を崩していった安倍内閣と同じ構造だ。

 特に社会一般の人に衝撃を与えたのは、ITサービス関連企業の不祥事だ。ライブドア事件と村上ファンド事件がネット系ITベンチャーの信頼を失墜させ、投資家離れを引き起こしたのは周知の事実。東京・六本木の超高層ビルに入っていく東京地検捜査員の姿は、報道狂想曲の恰好の材料だった。

 ライブドアが標的となったのは、ニッポン放送株を買い占めることで、フジテレビを支配下に置こうという大胆な奇策が既存のマスコミを敵に回したばかりではなかった。ITならではの時間外取引で、株式を大量に取得した手段が問題視されたのだ。村上ファンドのインサイダー取引、楽天によるTBS株買い占めも、ITベンチャーのイメージを悪化させた。

 それがひと段落した矢先、今度はシステム開発のアイ・エックス・アイの不正循環取引が発覚した。ソフト開発の多重下請け構造が取引を不透明にするという特性を悪用、同社役員(全員罷免)が案件を多重に計上、100億円を超える架空売り上げを上積みしていた。

 同社は債務処理が不可能となって民事再生手続きを申請し、今年2月22日付で東証2部から上場廃止となった。これに伴って親会社のインターネット総合研究所(東証マザーズ)も3月31日付で監理ポストに割り当てられ、6月24日に上場廃止、オリックスに買収されてしまった。

■うさん臭さ消す努力

 ERPやCRMなどニューアプリケーションを軸にSI事業を展開しているサンライズ・テクノロジー(大証ヘラクレス)も6月25日付で上場廃止となり、現在、同社は上場廃止の決定を無効とする「上場廃止意思表示の効力停止等仮処分命令申立裁判」を起こしている。判断は司法の場に移されたが、固定資産売却情報を適切に開示しなかったことが、上場廃止基準に抵触したとされる。

 同社の場合、それとは別の問題があった。2001年に上場して以来、大量の新株発行を行い、発行済み株式総数が68億株を超える異常事態となっていた。このため同社の株式は1─2円で取引されており、利ざやを求める投資家の好餌となっていた。新株発行そのものは違法でも不正でもないが、68億株というのは常識的ではない。

 このほかにもネットマークス(日本ユニシスが買収、過年度決算を修正)、アスキーソリューションズ(ヘラクレス、8月18日監理ポスト解除)など不明朗な経理処理で管理ポストを割り当てられた企業も相次いだ。ネットマークス、アスキーソリューションズなどは手続き上の問題かもしれないが、ITサービス業に精通しない多くの人が「ITはうさん臭い」と感じたのは確かだろう。

 JISA会長に就任した浜口友一氏は最初の会見で、「ITサービス産業の魅力づくりに取り組む」と宣言した。情報サービス産業が社会・産業の情報化、ひいては人々の生活を便利に、豊かにする仕組みづくりに貢献する21世紀に必須の産業であること、「3K」と呼ばれるような就労環境はごく一部の特殊なケースであること──等々を訴えたい考えは理解できる。「そんなふうに難しく考えないで、業界をあげて“見える”形の社会貢献活動を展開すればいい」という声もある。

 だが、その前に確立しておかなければならないことがある。業界各社の内部統制、運営の透明性、情報の開示と説明義務だ。JISAが求心力を持ち得るかという疑問はとりあえずおくとして、ユーザー企業に提案する前に、自らの襟を正す必要がある。いつまでも“紺屋の白袴”では、社会から見放されてしまう。
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