視点

転職と出版『わが国金融機関への期待』

2009/07/20 16:41

週刊BCN 2009年07月20日vol.1293掲載

 私事ながら、6月に日本銀行を辞め、NTTデータ経営研究所に転職した。「何故退職したのか?」と問われることも多いが、「新しいことにチャレンジしてみたいから」と言うほかない。「何ができるかは考え中」であるが、今後の「視点」においては、民間から見た目を織り交ぜながら、その時々の関心事を書いて参りたい。

 日銀時代に担当したITリスク管理や事業継続に関する各種の問題意識や課題解決に向けた提案は、書籍に纏めて『わが国金融機関への期待~ITリスク管理と事業継続の未来を拓く』として生産性出版から発刊することにした。


 この中には、金融機関の公共性と収益性のバランスをどう考えるべきか、個別企業がネットワークで繋がった社会のシステム全体として最適な解をどう求めていくのか、等を書き込んである。骨子となるメッセージを披露すると、以下のような趣旨の本である。


(1)リスクは無くすものではなく、顕在化した際に的確に対応する選択も含めて、適切に管理するものである。


(2)多様な原因から発生するIT障害をゼロにすることは不可能で、「絶対安全なシステム」は有り得ない。


(3)無謬性信仰から脱却し、国民的期待をできるだけ合理的な方向に誘導したい。


(4)目指すべきアプローチは、何か起きた時の迅速な復旧対策や事業継続管理(BCM)を充実させることにある。


(5)IT障害への取組み姿勢としては、「特定少数の利便性低下は受容するが、経済社会活動への大きなダメージや国民生活の混乱は避ける」というのが着地点ではないか。


(6)金融機関システムの多くは、開発コストが見合わない過剰な品質やサービスの提供に陥っている可能性が高く、開発のスピード感や効率性には課題が多い。


(7)結局のところ、金融機関は、「一企業としては営利主体だが、それらが組み合わさった決済システム全体としては公共インフラで公益性が高い」という整理が適切ではないか。


(8)したがって、個別企業のシステムが止まっても全体としての決済システムを止めないという意味で、「金融界システム全体としての頑健性が問われる」ことになる。


(9)部分最適ではなく、全体最適を追求するためには、各種の決済機関や金融機関が繋がった全体構造を考える必要がある。


 7月中には大手書店等に置かれるはずなので、お手に取ってご覧頂ければ幸いである。

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