視点

消えた年金記録から消えた年金受給者へ

2010/09/09 16:41

週刊BCN 2010年09月06日vol.1348掲載

 高齢者の所在がわからないという問題が突然出てきた。その発端となったのは、東京都足立区で戸籍上111歳になる男性がミイラ化した遺体で発見された事件である。事態を重く見た厚生労働省は「高齢者所在不明・孤立化防止対策チーム」を立ち上げ、医療・介護サービスの利用状況から高齢者の安否や所在の確認に全力を挙げる方針を打ち出した。

 高齢者の所在不明の問題は、年金の不正受給という事態にも飛び火している。老後の年金は、終身年金であり、生きている限り支払い続けられる。2006年以前は、年金受給者に「現況届」というハガキを送り、それが送り返されないと年金はストップするという仕組みで安否確認を行っていた。その仕組みは2006年に抜本改正され、住民基本台帳(住基ネット)との連動により生死の確認を行うことになって「現況届」は原則廃止された。この仕組みにも落とし穴があったというわけだ。

 人が死亡した場合には、医師が記載した死亡診断書とセットになった死亡届出書を7日以内に役所に提出することになっている。しかし、一人暮らしで家族とも音信不通の老人が死亡した場合には、誰も届出をする人がいない。届出がない限り、住民基本台帳上は「生きている」ことになり、年金は支給し続けられる。

 厚生労働省が「現況届」を原則廃止して、住民基本台帳との連動で安否の確認を行う制度自体は、膨大な事務費の負担軽減策としては仕方がないことだったのかもしれない。しかし、住民基本台帳自体が不正確な情報となっていれば、これに連動した社会保障制度も被害を被ることになる。

 現在、100歳以上の方の安否確認が対象であるが、これを80歳以上にまで枠を広げるともっと恐ろしい数字が出てきそうである。100歳以上の方の年金は、公的年金制度が充実していない時代のもので、金額も少ない。しかし、80歳以上まで枠を広げると、年金額も多い世代になる。本格的に調査すれば、年金が死亡した人に支払われていた金額も膨大な額となり、大問題になりそうだ。

 さらに、この問題の行き着く先は、「納税者番号制度」や国民が納める社会保険料や税金の一元化徴収に発展していくであろう。IT化やインターネット社会が進展しても、結局は人が何らかのアクションを起こさないと便利な道具であっても使えない道具になる、という教訓のようにも思える。
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