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<地方公務員が見たIT 第1回>IT投資を経営に生かす肝はRFPにある――藤 優之

2011/01/19 16:04

 経営コンサルタントの経験をもつ九州地方某県庁勤務の藤優之氏が、企業の視点からITのあり方を鋭く指摘。第1回は、RFP(提案依頼書)がどのような役割をもつのかを考える。

ベンダー依存ではダメ

 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査によれば、IT投資予算は2009年度が底で、10年度は下げ止まりの兆候を示している。また、従業員の規模別・売上高別でみると、大企業からIT投資が回復しつつあるようだ。このように企業がIT投資を増額させていくときこそ、いま一度システム開発の原点に立ち返り、IT投資を経営改革に活用していく方法を考えていく。

 私は、これまで多くの企業で経営コンサルタントとして経営戦略立案の支援を行ってきた。そこでは、規模に関係なく、多くの企業から「ITに多くの金額を投資したが、思ったような成果が出ていない」という声を聞いた。さらに、そうした声を上げる企業は、「RFPは作成していない」もしくは「ベンダーに最初から委託している」というケースが多かった。では、IT投資に予算を振り向ける余裕が出てきたなかで、以前の轍を踏まないためにはどうすればいいのか。IT投資は、経営改革に活用できるのだろうか、

 そのヒントは、RFPにある。RFPとは「Request for Proposal」、すなわち提案依頼書のことで、システムを導入する際にシステム開発業者に対して提案を依頼する文書をいう。決まった書式はないが、システムの「概要と目的」「必要な機能」「要求されるシステム条件」「納期」「契約条件」「評価プロセスと評価基準」「調達方針」「環境」などを盛り込んだものになる(詳細な記述例はITコーディネーター協会『RFP/SLA見本シリーズ』を参照)。

 RFPの作成方法は、二通りある。一つは、具体的かつ詳細に記述する方法。これは社内にITシステムに詳しい人材が豊富な企業がよく採る方法だ。もう一つは、大まかな概略を記載し、ベンダーに提案書とセットで作成を委ねる方法。これは、エンドユーザーに検証してもらいながら開発を進めていくスパイラル型開発で多く採られる方法である。

 いずれの方法も一長一短あるが、そもそも企業においてRFPがあまり作成されていないという現実がある。JUASの企業IT動向調査では、RFPを作成している企業は年々増加しているものの、2007年では全体の23%しか作成しておらず、従業員1000人以上の大企業でも34%程度しか作成していないという結果が出ている。

 これは、RFPを作成する以前の問題だ。というのも、「IT投資がうまくいっていない」という企業に限って、企業自身が課題の整理がうまくできていない、あるいは課題整理を行ってはいるが、結果としてユーザー寄りのシステムになってしまい、経営改革にまで至っていないということがある。コンサルティングのなかでよく見聞きしてきたケースだ。

チーム全員で理想の姿を共有する

 では、RFPをうまく作成するには、どのように課題整理を行っていけばいいのだろうか?

 IT投資計画を立てていく段階で、往々にして陥りがちなのは、IT投資自体が目的となってしまい、「IT投資による経営改革」が頭から離れてしまう事態だ。ここで大事なのは、「IT投資によって自社がどのように成功するか」というシナリオをチーム全員で検討し、あるべき将来の理想の姿を全員で強く共有すること。そうすれば、あるべき将来の理想の姿と現状との差異分析を行って、どうすればそこに近づくことができるのか、という根本から検討することができるようになり、課題整理もスムーズに進む。課題整理は、各部署の要求の寄せ集めではない。

 IT投資検討チーム全員で検討したプロジェクトが大成功をおさめ、さらに副次的に、チームに参加した若手社員の教育に役立ったことがあった――。

・次回に続く


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BCN Bizline編集部
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