ウェブシステム構築基盤を展開するNTTデータ イントラマートが、今年5月、クラウドサービス市場に本格参入した。システム構築の実行・開発基盤などから成るPaaS環境を提供するものだ。このプラットフォーム上で動作するアプリケーションソフトも用意して、先行するセールスフォース・ドットコムをキャッチアップする策を練る。
ビジネスモデルの転換
クラウドサービス市場に進出する理由は、いくつかあるだろう。受託ソフト開発会社なら下請けや人月ビジネスからの脱却を図ること、パッケージソフト会社ならライセンス販売からサービス提供へと収益モデルを転換することにある。
2000年2月に設立されたNTTデータ イントラマートも、主力のウェブシステム構築基盤「intra-mart」をパッケージ商品として販売している。100社を超えるシステム構築の有力IT企業と販売提携し、主に大手のユーザーを獲得。納入実績は累計2500社を超えた(2013年3月末時点)。ERPやワークフロー、さらにはシェアードサービスなどの基盤に使われている。
その一方で、「intra-mart」をクラウド環境で利用する企業が急増している。「intra-mart」のOEM供給先であるNTTドコモやNTTデータ、NTTコミュニケーションズ、日立ソリューションズなどが提供しており、そのユーザー数は、オンプレミスを上回る約4500社に達したという。アマゾンのウェブサービスを活用するIT企業もいる。しかも、パッケージの利用者が大手企業なのに対し、クラウドの利用者は中堅企業で顧客層が異なる。
このことが、NTTデータ イントラマートの中山義人社長がクラウド市場参入を決断した要因の一つとなっている。大手企業を中心に売り込んできた同社にとって、中堅企業は新規の市場。だが、中堅企業はIT資源の共有化を嫌がる傾向がある。そこで、中堅企業が安価にプライベートクラウドを構築できるPaaS環境を整備したのだ。「IaaSはコモディティ化が進んでおり、これからはPaaSが重要になる」(中山社長)として、IaaSはNTTコミュニケーションズのBizホスティングを使う。その上に稼働実績のある「intra-mart」をクラウドサービスとして提供し、年商100億~ 1000億円クラスの中堅企業に導入を働きかける。
同社のPaaSは、クラウド環境のセットアップから、アプリケーションのセットアップと利用、運用という一連の作業をセルフサービスで行うことができる。NTTデータ イントラマートがそのこと以上に売りにするのが、ハイブリッドクラウド環境を構築できるという点だ。「intra-mart」を導入中のユーザーなら、Bizホスティング上のクラウド版「intra-mart」とシームレスに連携できる。同じアーキテクチャだからだ。
会計はオンプレミス、グループウェアはクラウドサービスといったかたちで、アプリケーションごとに使い分けたり、オンプレミスからクラウドへと展開したりも可能になる。そのためには、企業内の共通アプリケーションを標準化し、SaaSを利用する。自社開発する固有のアプリケーションも、サービスとして利用するようにする。
要はアプリケーションの品揃え
PaaSの普及を図るうえで、もう一つ重要なのがアプリケーションの品揃えである。NTTデータ イントラマートはグループウェアとソーシャル機能を備えたコラボレーション商品を用意したが、「どうしてもキーアプリケーションが必要になる」(中山社長)として、パートナーのIT企業のサービス商品を取り込む。
富士ゼロックスの文書管理システムはその一つだ。部署ごとの異なる文書管理を統合し、全社共有の仕組みにする。スミセイ情報システムの経費・旅費ワークフローシステム、TISの購買調達システムなども仲間に加えた。多くの企業はERPを導入済みで、その周辺アプリケーションの開発に取り組んでいる。スマートデバイスなど、モバイル環境からの利用も実現させようとしている。
IT企業がこうしたアプリケーションを開発できる環境を整え、年内にはメニューを7アイテムに増やす計画だ。医療や介護、飲食店など特定の業種に強い企業と提携し、業界クラウドの立ち上げ支援も考えている。IT企業にとって、PaaSで開発したアプリケーションを実行環境に移せるので、SIの基盤になる。さらに、NTTデータ イントラマートはPaaSを仕切る制度にし、IT企業に毎月収入が入る仕組みにもした。
もちろん、中堅のユーザー企業が手軽に使えるよう、安価な月額料金体系にする。先行する有力IT企業の料金の2分の1から4分の1とし、「価格破壊の設定にした」(中山社長)。特定利用者が300人以下の場合、月額料金(Enterprise版)は27万円強になる。こうした施策で、NTTデータイントラマートは、2014年3月末までに新規のユーザー100社の獲得を目指す。
【今号のキーフレーズ】
パッケージの利用者が大手企業なのに対し、クラウドの利用者は中堅企業で顧客層が異なる。