徳島県と共同でOSS(オープンソースソフトウェア)を活用したシステムを開発した企業は、ビジネスチャンスを拡大している。そして、現在では、そのほかの県内のITベンダーや、学生にまでOSSの活用が広がっている。産官学が連携して、総力を挙げて徳島県内にOSS技術者を増やすことで、県外からの案件の受注につなげようとしている。(取材・文/真鍋 武)
総力を挙げてOSSを推進
県庁の情報システム課と協力して「自治体OSSキット」を開発した地場ITベンダーは、OSSの活用を新たな展開に結びつけている。例えば、オンラインストレージ「DECO」を開発したニューメディア徳島は、「DECO」の開発によって、OSSの開発言語Rubyを活用したパッケージソフト開発のノウハウを蓄積。これを応用して、親会社のスタンシステムは、基幹システムと連動して情報を引き出すことで、データを見える化する統合型CRM(顧客関係管理)ソフト「Scope」を開発した。眞鍋厚取締役副社長は、「Rubyを活用したソフトを開発するノウハウは、以前はなかった。県との共同開発というきっかけがあって、『Scope』の開発につながった」と効用を語る。

(左から)スタンシステム 眞鍋厚 取締役副社長、
アイ・ディ・エス 野原直一社長 また、ホームページ作成システム「Joruri CMS」を共同開発したアイ・ディ・エスも、共同開発をきっかけとして、グループウェアやウェブメールなど、Rubyを開発言語とした複数のソフトを開発している。「Joruri CMS」は、全国115の自治体・企業が導入するなど、利用が拡大。野原直一社長は、「県外で獲得した『Joruri CMS』のカスタマイズ案件を、一部、徳島県内のITベンダーに請け負ってもらうようにしたい」と語る。自治体と共同開発した企業だけが恩恵を被るのではなく、徳島県のIT産業全体が活性化することを意図しているのだ。
しかし、徳島県のITベンダーのすべてがOSSの技術者を抱えているわけではない。徳島県情報産業協会(Tia)の外山邦夫会長は、「Rubyの技術者を抱えている企業はとくに少ない」と実情を語る。そこで、Tiaは、大阪のRubyビジネス推進協議会と提携を結んだ。OSSの講習会や、技術者の交流会を開催して、地場ベンダーのOSS技術者の育成に力を注ぐ。また、会員企業の技術者の研修を兼ねて、「Joruri」を活用してTiaのホームページをリニューアルするなど、地場IT産業の活性化を図っている。

(左から)徳島県情報産業協会 外山邦夫会長、
サンシステム エンジニアリング 楠本克仁 代表取締役 それだけではない。Tiaは、県や四国大学など、産官学と連携して、12年7月に「とくしまOSS普及協議会」を設立した。Rubyを中心とするOSSの勉強会などを月次ペースで開催して、徳島県の総力を挙げてOSS技術者を増やしていこうとしている。すでに、今年6月時点で、約30の企業・組織が会員として参加している。「全国的にみても、Rubyの技術者は不足している。徳島県がRubyに強い地域となることで、県外からニアショア開発の案件を獲得したい」(外山会長)という狙いがある。
また、OSSを必要とする受託案件だけでなく、「とくしまOSS普及協議会」に参加している企業は、それぞれがOSSを活用した商材の開発に挑戦しようとしている。近年、デジタルサイネージの販売に力を入れているサンシステムエンジニアリングの楠本克仁代表取締役は、「Rubyを活用して、さらにコンパクトなサイネージシステムを開発したい」と意欲をみせている。
学生の段階からRuby技術者を育成
県やTiaは、将来的には徳島県をRubyの先進地域にしたいと考えている。そこで、地場ITベンダー各社がOSS技術者を育成するだけでなく、OSSに興味を抱く学生を積極的に支援することで、早い段階から技術者を育成しようとしている。
今年6月からは、徳島県とTiaが共同して、プログラミングや、スマートフォンアプリの制作に興味をもつ地元の中・高生を対象に、「Rubyプログラミング講座/合宿」を開催している。プログラミングの初心者でもわかりやすいように、パソコンが動く仕組みから説明して、簡単なゲームの作成を通じて、プログラミングを学んでもらうというものだ。講座は、20人の定員に対して40人の応募があるなど、盛況ぶりを示している。県とTiaは、この講座/合宿を引き続き実施していく。
また、合宿では、学生を育成するだけでなく、サテライトオフィスとしてIT企業の誘致に盛んな神山町を開催場所として選定し、県外から進出してきたIT企業に講師を務めてもらうなど、地場ベンダーと進出企業との交流を深めている。
実は、これまで、地場ベンダーと進出企業は、お互いが交流したいと思いながらも、そのための具体的な場づくりができていなかった。その反省を生かして、お互いが歩み寄れる環境を構築しつつあるのだ。OSSの活用に積極的な地場ITベンダーと、都会からやってきた最先端のIT事情に詳しい企業が交わることで、新たなビジネスが芽吹く日もそう遠くはないだろう。

写真提供:(一社)佐賀県観光連盟 次回は、自治体のIT利活用推進が盛んな佐賀県のIT産業の動きを紹介する