OSS(オープンソースソフトウェア)の利用範囲がOSからミドルウェア、アプリケーションソフトまで広がっている。そこにいち早く対応したIT企業が、野村総合研究所(NRI)だ。OSS事業を本格的に立ち上げてから10年が経過した今、適用領域をERPへと広げようとしている。
OSSの適用範囲を拡大
NRIには、OSSビジネスの先駆的な事例が2002年にあった。あるオンライン証券会社向けのオンライントレードシステムを、100台ほどのLinuxサーバーで構築したケースだ。NRIはこのプロジェクトが成功したことをきっかけとして、OSSの専門組織を設置して、各事業部門が手がけるOSSベースのシステム開発の支援を開始した。運用や保守をサポートしながら、OSSの社内普及活動にも取り組んだ。
そうしたなかで、ユーザーやIT企業がOSSベースのシステムを構築するにあたり、サポートを依頼されるケースが増えてきた。OSSビジネスの可能性を確信したNRIは、06年、OSSのサポートサービスを「OpenStandia」という名称をつけて発売。OSSの適用領域も、OSからアプリケーションサーバーやデータベースなどのミドルウェアまで広げた。時が経つにつれて、利用するOSSは上位レイヤ(アプリケーション)に向く。08年頃になると、シングルサインオンやポータル(情報共有)、ID管理、BI・レポーティングなどのアプリケーション、12年になるとCRMやERPなどへと拡大してきた。そして、NRIのOSS関連売り上げは、年2ケタの率で伸び続けた。
NRIのOSS事業をけん引する情報技術本部の寺田雄一・オープンソースソリューション推進室長によると、アプリケーションサーバー「JBoss」は、社内の標準プラットフォームになり、最近はほぼすべてのプロジェクトに使っているという。ユーザーへの販売だけでなく、社内利用も進めていったわけだ。
複数存在するOSSのメリット
ユーザーがOSSを選択する理由の一つは、コストにある。商用ERPを導入する某ユーザーは、海外拠点にOSSのERPを採用した。海外拠点の業務は国内に比べて簡素なので、商用ERPの豊富な機能は必要なかったからだった。もちろん、コストは減少した。社員数百人の企業が受発注システムの更新にあたり、OSSを選択した理由もコストだったという。
「同じバージョンを使い続けたい」「カスタマイズをしたい」といったユーザーにも、OSSは有効な選択肢になる。「10年前に入れたアプリケーションサーバーを使っているユーザーもいる」(寺田室長)。これは、ソースコードから管理するからこそ可能なこと。商用ソフトであれば「Windows XP」のようにサポート期限切れが必ず待っていて、バージョンを変える必要が出てくるからだ。
IT企業側のメリットもある。どのITベンダーでも販売できるパッケージのライセンスを売ったところで、差異化できずに利益を生みにくい。OSSの場合は「付加価値をいかに出すか」(寺田室長)を考えられる余地が広く、他社との違いを出しやすい。NRIが60種類近いOSSを揃えて、ワンストップで提供する体制を整えたのはそのためだ。
そして、エンジニアにとってもシステム構築の楽しさが増す。「ユーザーにどう役立つものにするか」と創意工夫を凝らすことができるからだ。ソースコードを読み、必要な機能を書き加えて、ユーザーの求めるシステムに仕立て上げる。出来合いのパッケージを売るのとは異なり、エンジニア冥利につきる仕事になる。
NRIはOSS事業を推進するにあたって、伝統的な開発体制も見直している。インフラやデータベース、アプリケーションなどの専門家を配置し、分担させる分業体制ではなく、一人のエンジニアが何でもこなす仕組みを構築したのだ。
IT企業がOSSを使ってシステムをつくるのか、商用ソフトを使ってシステムをつくるのか──。それは各IT企業の考え方次第だ。だが、OSSは間違いなく、エンタープライズITの分野に浸透している。寺田室長は、OSSのミドルウェアを使っているユーザーは30%に達すると推測する。ERPなど業務アプリケーションのレイヤーを採用するユーザーが増えていることも実感している。
「感情的な不安」(寺田室長)で採用を躊躇するユーザーもいるが、その数は着実に減っている。OSSはユーザーの選択肢の一つになった。IT企業はコストや機能などを比較し、自信を持って提案するべきだ。そこから、新たな道も開けてくる。
【今号のキーフレーズ】
OSSの積極採用で付加価値を生み開発コストを低減。エンジニアのやる気もかき立てる