東京五輪が決まって、日本の将来の姿を想像する楽しみが増えた。7年後、ITはどれほど仕事のムダを省き、家庭での生活を豊かにしているのだろう。

　10年ほど前を思い返してみた。あの頃、IT業界で流行っていた言葉は「ユビキタス」だったように思う。ITを「誰でも・いつでも・どこでも」使うことができる環境。それがユビキタスの意味だった。当時、家庭で光ファイバーを使うためには月額1万円以上が必要だった。端末はパソコンしか選択肢がなく、ノート型は上位機種であれば30万円ほど。携帯電話の普及率は70％にも達していなかった。当時のこの状況からすると、ユビキタスは非現実的だった。しかし、今、ほぼ現実になっている。あの頃、夢物語だった世界をIT業界の人たちはつくりあげた。技術の進化は止まらない。7年後、IT技術者はきっとまた、今は想像にとどまる世界を現実にしているはずだ。

　7年後のIT産業をビジネスの観点でみた場合、厳しい環境にありそうに思う。右肩上がりの成長は終わり、ユーザーのIT投資額は増えないことを前提にしなければならない。IT企業は、これまでの「売り物・売り方・売り先」ではビジネスを伸ばすことができないだろう。これまでにない変化への対応が求められる。

　変化の対応を考えれば、若い人材の活躍の場を増やすべき、世代交代をこれまで以上に進めるべきだと思っている。誤解を恐れずにいえば、1980年代から伸び続けた30年を経験して50代、60代を迎えているIT業界人と、停滞のなかを生きてきて、この先30年、40年働く20代、30代では危機意識が違う。テクノロジーをキャッチアップする力も若い人材が上回っているだろう。若さは再成長のきっかけになると考えている。

　65歳のIT企業の創業社長に、失礼を承知でこの話をしたことがある。「確かにその通り。60歳を過ぎた私たちは、最先端の技術を習得する力が弱い。過去の成功体験や既存事業に縛られているのもわかっている。ただ、これまで培った私たちの経験は、後世に伝えるだけの価値がある。必要なのは世代交代ではない。世代融合なんだ」。経営幹部と若手が同じ立場で意見を交わし再成長に向けた道を描く。簡単ではないかもしれないが、夢をかたちにし、産業として発展させるためには、世代の融合はきっとカギになる。さまざまなかたちで進むことを期待しているし、その一助になれればと思う。