玉川道洋さんは、関電システムソリューションズの首都圏事業を伸ばすために選ばれた腕利きの営業リーダーだ。大阪本社で大手・中堅企業向けのCRM事業を成功に導いた実績が評価され、今年3月から、新設の東京事業部で、営業チームを率いている。現場の意見をまとめて方針を定め、実行の必要性を上層部に熱く訴えることによって、上からブレーキがかかるという社内の壁を打ち破る。管理職になった今も「お客様と同じ目線でいたい」と話す玉川さん。首都圏事業の拡大に懸命に取り組んでいる。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/長谷川博一)
[語る人]
関電システムソリューションズ 玉川道洋さん
●profile..........玉川 道洋(たまがわ みちひろ)
大阪府出身。1999年、大学を卒業して日立系の販社に入社。システムインテグレーション(SI)の営業に携わった。2005年、関電システムソリューションズに転職し、CRM(顧客管理)ツールなどを商材に、大手・中堅企業向け営業に従事。そのかたわら、会社の事業戦略を立案するタスクチームの中心リーダーとして活動。13年3月から、東京事業部のメンバーとして、首都圏ビジネスの営業を担当。
●所属..........関電システムソリューションズ
ソリューション事業本部
東京事業部 営業グループ
課長
●担当する商材.......... CRMなどの業務アプリケーション
●訪問するお客様.......... 首都圏の大手・中堅企業とパートナー
●掲げるミッション.......... 首都圏での業種戦略を成功に導く
●やり甲斐.......... 首都圏ビジネスを大きく伸ばすという高い目標に挑戦すること
●部下を率いるコツ.......... 前向きに明るくリードする
●リードする部下.......... 直属2人、ワーキンググループで10人
熱い思いを経営層に訴えて社内の壁を打ち破る
昨年12月、当社の経営幹部約50人が一堂に会した会議室で、私はプレゼンテーションを行った。営業現場の意見を取り入れて案件数を伸ばした「CRM事業を、ぜひ首都圏でもやらせてください」とトップ層に訴えた。プレゼンの準備は万全だった。「市場の規模は」「ユーザーのニーズは」──。幹部たちが気にする情報をすべて用意し、きちんとした市場分析によって、首都圏でCRM事業を展開する必要性を裏づけた。
人情の町、大阪の出身。お客様の懐に深く入り込んで、本当の悩みを聞かせていただくまで、売り込みはしない。まず、人間関係づくりに力を入れて、信頼してもらえるようになったと判断したら、猛スピードで提案して受注につなげる。こうしたやり方でトップ営業になり、今は営業グループの課長として、2人の部下を率いている。さらに、CRM事業を拡大するための戦略を練り、およそ10人で構成するワーキンググループもリードしている。私たちの現在のミッションは、大阪で積み上げた実績を生かして、多くの企業が集まる首都圏でも、CRM事業を本格的に立ち上げることだ。
当社はもともと、親会社である関西電力に向けたSIをビジネスの柱としてきた。しかし、売り上げを伸ばすためには、全国規模で一般の企業への販売に取り組むことが欠かせない。そんななかにあって、ワーキンググループで、独自のCRMツールを市場開拓用の商材として開発し、大手・中堅のお客様に提案する方針を決めた。問題は、その方針を、いかにトップ層に納得してもらうかだ。「前例がないし、リスクが高すぎる」などといわれて、ブレーキがかかってしまったら、せっかく立案した計画は台なしになる。
もともと人見知りしない性格なので、「まずは社長を説得しなければ話にならない」と考えて、社長室に足を運んだ。営業現場の意見を「お客様目線」でまとめ、「経営者目線」に切り替えて、社長にCRM事業計画をなぜこう立てたかの理由をロジカルに説明し、ゴーサインをもらった。大阪で、CRM案件を年に1件から、1か月で数件に伸ばした。
リーダーとして、指示ではなく、アドバイスすることを心がけている。各自それぞれがプライドをもっているので、それを傷つけたくないからだ。部下たちの動きをバックアップし、「自分が努力してつかんだ成果だ」と感じるように仕向けている。
[紙面のつづき]裏方としてフィールドをつくる、「営業は天職」
私が率いるチームは、首都圏でのCRM(顧客関係管理システム)事業の拡大に取り組んでいる。現在のミッションは、新規顧客の開拓だ。本社のある大阪には、もともと人間関係を大切にする商習慣があるので、新たなお客様の懐には比較的らくに入ることができる。しかし、最終的に「お金がない」ということで、受注には至らない……。そんなことを何度も経験してきた。
これに対して、今年3月からの東京は、競合他社の数が非常に多くて、入り口を突破することがなかなか大変だ。それでもこの半年の活動から、いったんお客様の懐に入ったら、案件を受注するチャンスが豊富だということがわかった。つまり、工夫して入り口さえを突破すれば、商機は必ずあるということ。そう実感した私は、新規顧客の開拓をチームのメンバーに指示した。
しかし、首都圏でのビジネスにまだ不慣れな部下たちは、当然ながら、会社が掲げている方針に対していろいろな不安や疑問を抱いている。日頃、新規顧客の開拓に苦労するなか、「何のためにやるのか」「この方針で本当にいいのか」と、私に答えを求めてくる。そのとき、彼らに言うのは、「今すぐ成果が出なくても、3~5年後をイメージして、将来のビジネスづくりを目指してほしい」ということだ。商機があることを強調しながら、数年後のあるべき姿を描いて、それに向けて全力で動くように励ましている。
営業の現場担当と営業マネージャーとしての私に大きな影響を与えたのは、若いときの経験と出会いだ。
まず、経験。メーカー系のシステム構築の会社だった前職で、私が担当する案件でトラブルが発生し、お客様に対応を要求された。ところが、私は「いや、それはメーカーの領域ですから」と言いわけをして、対応から逃げた。当然、お客様からは相当のお叱りを受けた。「あなたの会社とつき合う価値はいったい何か」と厳しく言われ、それをきっかけに営業としての考えを根本から見直した。「お客様の喜ぶ顔を見る」ことを目指し、常にお客様目線を忘れないことを心がけるようにしている。いまは、この失敗を事例として出しながら、部下にもお客様目線の重要性を説いている。
そして出会い。若い頃に、「思うように提案を進めればいい。そうすると、仮に失敗したとしても、自分が成長する」というスタンスの上司がいた。部下をもつようになった今も、その上司の姿勢を見習って、部下のそれぞれの考えやアイデアをなるべく尊重するマネジメントを追求している。裏方として、部下が成果を上げやすいフィールドをつくり、売り上げの拡大につなげる。そんなことができる環境を与えてもらった今、営業は本当に天職だと思っている。

「値段が高くて妻が買ってくれないので、こっそり自分で手に入れた」というManhattan Passageのビジネスバッグ。「端末や資料など、いろいろなものを収納できるので、出張に便利」だとか。