エス・アンド・アイの第一営業部は、サーバーやネットワークの中核商材を担当している。いわば同社の“メジャーリーグ”だ。新人はまずここに配属されて鍛えられ、将来、会社を担う人材に育てられる。そして、新人が憧れて、「自分もそうなりたい」と目標にしているのは、部長の長谷川道明さんだ。2005年、イトーヨーカ堂から転職して、わずか6年で部長に就任した。現場で苦労した自らの経験を生かして、部下が会社で「目立つ存在」になる手助けをすることに力を注いでいる。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/長谷川博一)
[語る人]
エス・アンド・アイ 長谷川道明さん
●profile..........長谷川 道明(はせがわ みちあき)
イトーヨーカ堂でスポーツ用品の販売などに携わった後、2005年にエス・アンド・アイに入社。サーバーやネットワークを提案する第一営業部に配属され、営業とITについてイチから学ぶ。積極的な仕事ぶりが評価され、2010年に第一営業部の部長に就任した。13年からは、自分個人の数字目標を掲げず、全案件を統括することに専念している。
●所属..........エス・アンド・アイ
営業本部
第一営業部
部長
●担当する商材.......... サーバーやネットワーク機器
●訪問するお客様.......... 首都圏の大口のユーザー企業
●掲げるミッション.......... 受注金額の減少に対処するために、新規顧客を開拓すること
●やり甲斐.......... 新人の頃に先輩だった年長の部員に、部長として認められていること
●部下を率いるコツ.......... 「必ず成果を出せ」というようなプレッシャーをかけないこと
●リードする部下.......... 7人
リーダーを任せて提案力の向上につなげる
第一営業部は、メンバーが自らの仕事を誇りに思っている部署だ。イトーヨーカドーの店舗でママチャリを売った経験しかもっていない僕は、この部署に配属された当初、営業はもちろんのこと、パソコンの使い方さえもよく知らなかった。上司に「最初の2~3年は、頑張りどころだ」と言われて厳しく指導され、とにかく懸命に働いた。そのときからずっと強く思い続けて、部長の立場にある今、部下たちに伝えていることは、お客様に信頼されるよりも、まず、会社にとって頼りになる存在を目指すべきだということだ。
「できない。無理です」と部下が音を上げることを承知のうえで、仕事を言いつけている。そして、できるようにするために、辛抱強く面倒をみる。2010年、自分が部長に就任した年に入社した新人に、当時、当社にとって新しい取り扱い製品だったシンクライアントの営業を担当させた。その部下をシンクライアントの「プロダクトオーナー(専任担当者)」に指名して、勉強を促しつつ、当社に二人といないシンクライアント営業のプロに育てた。彼はここ3年間、ヘルプを求めることもあるが、一人前の営業担当者になって、今はどんどん案件を獲ってきている。
メンバーの活動が会社のなかで目立つようにしているのには理由がある。自分が新人だったときに、営業活動で苦労し、「お前は会社にとって役に立たない」といわれるようなことは絶対にしたくない気持ちが強かったからだと思う。誰にも負けたくないと懸命に活動したおかげでスピーディに昇進し、後輩たちの目標にされていると感じている。だから、日頃の営業をサポートするとともに、彼らのキャリアパスづくりについても常に意識している。
現在、進行しているプロジェクトで、入社4年目の部下を「提案リーダー」に任命して、提案活動の統括や技術部隊との調整などを任せている。彼はこれまで、言われたことをそつなくこなして実績を上げてきたが、これからはお客様の要求をもっとアクティブに読み取ることが求められる。そのために、今回のプロジェクトを通じてリーダーとしての責任感を感じさせ、提案力の向上につなげたいと考えている。
うちのチームには、かつて先輩だった部下が4人いる。最初は先輩への接し方に少し戸惑ったが、最近は相談を受けるようになって、年長のメンバーにも部長として認められていることを実感して、うれしく思っている。
[紙面のつづき]共に新しいお客様を発掘、「受注につなげるのはあなた」と念押し
現在、既存ユーザー向けのビジネスが縮小傾向にあるので、当社の独自サービスを武器に新しいお客様を開拓するのが、われわれ第一営業部の直近の課題だ。僕は、5年以上に取り引きがないお客様への再度のアプローチを方針に掲げた。「ごぶさたしております。エス・アンド・アイです」と連絡を取り、ここ数年の間に揃えてきたICT(情報通信技術)サービスを紹介するために、お客様を訪問する。
新しいお客様の発掘は、部長のミッションだと考えている。営業現場から「提案の切り口がよくわからない」「ずっと連絡していなかったのでアポイントメントが取りづらい」といった声を聞いて、最初の訪問は僕もいっしょに行くことにした。担当営業のフォローをしながら、部長同行ということでアポイントメントを取りやすい環境をつくっている。
このやり方で気をつけなければならないのは、担当営業が訪問した企業を自分のお客様と認識せずに、案件の進行を僕に任せてしまわないようにすること。そのために、お客様を訪問したあと、担当に「これからの提案を受注につなげるのはあなたです」とはっきり伝えて、自分のお客様であることを認識させている。おかけで、このところ、担当営業がすべてを仕切るかたちで、迅速に見積もりを出し、他社よりも低価格であることを訴求することによって、新しいお客様からご注文をいただけている。
新規顧客の獲得もそうだが、今後は、営業メンバーはいろいろな新しいことに挑戦する必要があると思う。発掘の方法を工夫したり、提案の切り口を変えたりするだけではなく、お客様から聞いた課題やニーズをもとに、技術部隊と連携してサービスのデザインを考えるという、営業らしくない仕事にも携わらないといけないだろう。ただし、挑戦する壁が高すぎてメンバーのやる気を削いでしまわないよう配慮することも、強く求められるところだと認識している。
欠かせないのは、日頃の仕事でのフォローや励ましだ。フォローはプレッシャーにもつながりかねないので、どこまでフォローするかを慎重に判断することが重要だ。2010年に部長に就任してから、部内に会社を辞めた人が一人だけいる。その人は、「フォローしてもらっているのに期待に応えることができず、申し訳ない」という理由で退職を決めた。僕はその人の退職から学んで、部下について、休日は私服を着て家族と遊ぶ姿を思い描くなど、メンバーを社会人としてだけでなく、生活者として見ることを心がけるようにした。これからも、各自の能力に合わせたフォローを考えて、チームとしての力を引き出したい。

商談の場で考えていることを書き留めて、お客様に見せるノート。ホワイトボードを使うことが多いが、それがない場合に備えて、このノートを持ち歩いている。