新しい時代には、新しいタイプのリーダーが必要とされる。通信キャリアなどにクラウド構築のサービスを提供するクリエーションラインの井丸伸宏さんは、「公平」と「自主行動」を重視するアメリカ式の営業マネージャーだ。もともとは汎用機を扱うSIerのプログラマで、その後、コンサルティング会社を設立したり、ソフトウェア開発会社で営業チームを統括したりという経歴をもつ。現在は、クリエーションラインで営業体制を築き、でき上がったばかりのクラウド構築ビジネスに適したマネジメントとはどのようなものかを模索しているところだ。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/津島隆雄)
[語る人]
クリエーションライン 井丸伸宏さん
●profile..........井丸 伸宏(いまる のぶひろ)
システムインテグレータ(SIer)のプログラマとして汎用機の構築に携わった後、独立してコンサルティングを手がける会社を設立。オープンソースのソリューションを提供するミラクル・リナックスで営業担当を経て、2012年12月にクリエーションラインに入社した。国内営業を担当する。
●所属..........営業部長
●担当する商材.......... クラウド構築のサービスや関連ツール
●訪問するお客様.......... 大手通信キャリアのほかに、システムインテグレータ(SIer)など
●掲げるミッション.......... 営業部隊を立ち上げ、クラウド構築の事業を本格的に拡大させること
●やり甲斐.......... 急成長しているITベンチャーで、営業体制をゼロからつくり上げること
●部下を率いるコツ.......... 各自を公平に扱い、実績に応じたインセンティブを用意することによって、モチベーションを高める
●リードする部下.......... 国内営業として、現在は一人で奮闘中。今後は、営業メンバーを10人に増やし、彼らを管理するマネージャーを務める
米国式のマネジメントでCIerの成長基盤を築く
国内営業の担当として、提案活動を現在は一人でこなしている。案件の数に対して営業リソースが足りず、対応に追われる毎日だ。 当社は、大手通信キャリアを中心にクラウド構築を提供しているが、将来はターゲットをエンタープライズのお客様にも広げたいと考えている。そのために、急ピッチで取り組んでいるのは、営業部隊の立ち上げだ。私が指揮を執るかたちで、今後3年で営業メンバーを10人に増やして、彼らの行動を統括するマネージャーを務めることになる。
当社は、クラウド管理ツールなどを使って、お客様の仮想環境を構築したり、運用をサポートしたりするいわゆるクラウドインテグレータ(CIer)である。目に見える商材をもたないクラウド構築は、まだ新しいビジネスモデルだ。サーバーなどのハードを含めて提案する従来のSIから、営業方法は大きく変わると捉えている。少人数のベンチャー企業で、自由な社風のCIerの当社にとって、理想の営業マネージャーとはどのようなものなのか。これまでの自身の経験を踏まえて知恵を絞り、人材を募集していく。
米国で暮らした経験はないが、実績を基準にして社員を公平に扱い、自主的な行動を促すアメリカ式のマネジメントが有効だと考えている。
大学を出て、最初の仕事は、メインフレームを取り扱う、古い体質のSIerだった。朝出社して、黙々と仕事をして、定時に帰るという規則正しい業務の流れをまるで学校生活のように感じて、閉塞感を覚えた。これは、自分に合わない──。私はそう判断し、独立を決心した。会社を立ち上げて経営ノウハウを身につけた後、ソフト開発の企業に入社して、営業やチーム統括のノウハウを磨いてきた。
やり甲斐を感じるのは、自分で計画を立てて、自ら動くというベンチャー企業らしい仕事のこなし方だ。キャリアを通じて、そう確信してきた。クリエーションラインに入社し、営業体制を築くミッションを引き受けたのは、自分の営業スタイルをメンバーに伝え、主体的に行動するチームづくりに挑戦したいと思ったからだ。
今は、社内規程を策定したり、評価制度はどうするかを考えたりするなどの準備に取り組んでいる。マネジメントの柱にしたいのは、勤務時間などではなく、売上実績によって報酬を決めるインセンティブ制度の導入だ。これによって、モチベーションの高い営業メンバーを揃えて、新しいパートナーやお客様を発掘したい。
[紙面のつづき]「オープンソースコミュニティ」との交流で新しいビジネスを創出
IT企業の営業マネージャーには、ゴルフをする人が多い。接待や、人脈づくりに役立つとは思うのだが、しかし、それはあくまで従来型のIT企業の話ではないだろうか。私自身は、一度もゴルフをやったことがない。当社のように、クラウド構築という新しいビジネスモデルを採用しているクラウドインテグレータ(CIer)の場合は、ゴルフではなく、「オープンソースコミュニティ」とのつながりを深めることが、営業マネージャーの重要なミッションになる。
オープンソースコミュニティとは、ソースコードを無償公開しているオープンソースソフトウェアに関わる活動を行う個人や団体のこと。最近は、特定のメーカーに依存せず、クラウド基盤をオープンソースで実現するプロジェクト「OpenStack」が注目されていて、私は関連するイベントに参加するなどしてメンバーとの交流に努めている。いろいろな情報を入手して、クラウド業界のなかでクリエーションラインの存在感を示すことによって、新しいビジネスを創出したい。
こうした活動が実を結んだ事例の一つとして、デルと共同で展開しているスケールアウトNAS(ネットワーク対応ストレージ)「Amage(アマージ)」がある。これは、独自の自立分散アーキテクチャーを採用して、すべてのノードの役割が対等なので、どのノードが故障したとしてもシステムは稼働し続けることが特徴だ。さらに、オープンソースのクラウド基盤である「CloudStack」と連携するので、クラウド構築に最適なストレージだと捉えている。
「Amage」は、東京大学から生まれたITベンチャー企業が開発したソフトウェアを当社が販売店として担ぎ、デルのハードウェアに組み込んだかたちで製品化している。現在、デルと密に連携して提案活動を行い、「Amage」を活用したクラウドシステムの構築実績を増やしている。この展開を成功事例として、今後も「オープンソースコミュニティ」との関係づくりを大切にしていく。日本発のすぐれたソフトウェア技術を発見して製品化することで、パートナーとともにCIビジネスの活性化を目指したい。

マドラスのシューズ。ゴム製の靴底で「雨の日に、オフィスビルの大理石床を歩いても滑らない」ことが、お気に入りだそうだ。