上野潤二さんは、ネットワーク構築を手がけるネットワンシステムズで、大手のサービスプロバイダにITインフラを提案する部隊を率いている。社内で実施したアンケート調査で、「社員に最もほめられた人」のトップ10に入るなど、マネージャーとして、部下や同僚から高い評価を得ている。上野さんは、ネットワンシステムズ全体が機器販売からソリューション提案に舵を切ろうとするなかで、部下に対して「見せ方」を大胆に変えることを促し、将来の事業成長の基盤を築いている。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/長谷川博一)
[語る人]
ネットワンシステムズ 上野潤二さん
●profile..........上野 潤二(うえの じゅんじ)
大学卒業後、専門商社での勤務を経て、1997年に国内総合電機メーカーに入社し、サービスプロバイダ向け営業に携わる。2005年にネットワンシステムズに入社。2011年に部長に就任した。現在は、サービスプロバイダ向けネットワーク機器やクラウド基盤の営業を担当する。
●所属..........東日本事業本部
第1営業部 部長
●担当する商材.......... ネットワーク/クラウドソリューション
●訪問するお客様.......... 大手のサービスプロバイダ
●掲げるミッション.......... 機器販売から脱却し、ソリューション事業を本格化させること
●やり甲斐.......... 自分の行動で「会社を変えられるかもしれない」という可能性
●部下を率いるコツ.......... 「ほめる」と「叱る」のバランスをとる
●リードする部下.......... 34人
「見せ方」を変えてお客様に価値を訴える
当社はいま、大きな転換点に立っていると実感している。私のチームは、サービスプロバイダに対して、これまでルータやスイッチなどのネットワーク機器を販売してきた。現在も、数件の大口案件を手がけていて、年間、数十億円の売り上げを担当している。しかし、市場が激変するなかにあって、現状のビジネスモデルでは事業の規模を維持することはできない。私をはじめ、当社のマネージャーたちはこうした危機感を抱き、部下とともに新しい市場環境への対応策を模索しているところだ。
私は、IT機器やソフトウェアを活用し、お客様の業務課題を解決するソリューションの提案にあたっては、「見せ方」がカギを握ると考えている。同じ製品・サービスでも、「こんな特徴があります」と単に機能を紹介するのではなく、「このように活用すれば、○○ができます」というように、ビジネスを改善するシナリオをきちんと示せば、お客様の心をつかむことができると確信しているからだ。
しかし、部下たちに「見せ方」を意識するように仕向けたところで、そう簡単に提案法を大胆に変えてはくれるわけではない。部下たちは、新卒採用で当社に入り、10年ほどのキャリアを積んできた30歳前後の人材が多い。機器販売が好調だった時代に入社して、当社特有の“少しまじめすぎる”気質をもっているので、常に刺激を与えなければ、新しい提案法に挑戦してはくれない。
私は東京本社と大阪にある関西支社を行き来し、それぞれの拠点の部下たちに「挑戦してみろ」と尻を叩いている。関西支社の担当になった頃、前年の提案書を見せてくれと指示したら、たった1枚しか出てこなかった。どういうことかといえば、既存のお客様から要望を受けて動くという受け身の仕事がほとんどで、こちらから主体的にソリューションを提案する案件は、残念ながら一つしかなかったのだ。
まだまだ課題も多いけれど、部下と危機感を共有し、新しいタイプの提案に挑む空気が醸成されつつある。その成果として、部下の行動が活発になる兆しがみえてきた。先日、およそ1年をかけて西日本のデータセンター運営会社にインフラ基盤を提案し、数多くのトラブルを乗り越えて、無事に受注できた案件があった。このように、部下の動き方の変化が実績面に現れており、ソリューション事業が少しずつ伸びている。
受信したメールにはすぐに返信しなければ気が済まないというような、せっかちな性格だ。「すぐにやる」を前向きに生かして、市場環境の変化に迅速に対応したい。
[紙面のつづき]社内講座でビジネス英語を習得、米国を案内してお客様の心をつかむ
当社はICT(情報通信技術)を活用した「ワークスタイルの変革」を掲げ、仮想デスクトップやビデオ会議など、取り扱う商材を自社で導入している。お客様を当社にお招きしてデモンストレーションをするだけでなく、営業活動でもこれらのツールを大いに生かしている。
課題は、部下を世界でビジネスができる「グローバル人材」にどのように育てるかだ。当社は、シスコシステムズをはじめ、主に米国製品の販売・構築を手がけている。メーカーの本社に日本市場のニーズを正確に伝えたり、お客様をアメリカに連れて行き、現地で製品のよさを知っていただいたりするために、英語のスキルは重要。そこで最近力を入れているのが、ビデオ会議を通じた英語学習だ。
私の部下は東京本社と大阪の関西支社にいる。毎週月曜日の午後5時半、ビデオ会議で東京と大阪のオフィスをつないで、先生を招いて90分間、みんなで英語の勉強に励む。海外出張に役立つ生きたビジネス英語にこだわり、会話力を磨いているのだ。
当社が拡販に取り組んでいるソリューションは、売り込み方が従来の機器販売とは大きく異なる。現場の情報システム部門に提案するのではなく、お客様のエグゼクティブにトップダウンで導入を決めていただくのが一番手っ取り早いので、経営層に向けた営業活動がカギを握る。先日、部下がお客様といっしょに米国に行った。部下は、メーカー本社への訪問のほか、ゴルフをしたり、観光を楽しんだりと、エグゼクティブが喜ぶプログラムを企画し、社内講座で身につけた英語を使って、手慣れた感じで現地を案内。お客様がその対応を高く評価し、商談が具体的なフェーズに入ったといううれしい成果があった。
こうして英語の学習に精を出し、国内外でエグゼクティブ向けの提案活動ができるよう、部下のスキルアップを図っていきたい。

「ラミー」のボールペンは「娘からの贈り物」。デザインがシンプルで、機能性にすぐれている点が気に入っているそうだ。