潮流の一つは、自動化と自律化だ。自動化の狙いは、省力化によるコスト削減だけではない。作業品質の均質化や安定運用、変更変化への即応などでブレークスルーを生みだすことにある。このような取り組みは、目新しいことではない。しかし、従来と異なるのは、決められたやり方を確実にこなす自動化に、自律化すなわち、「スマートマシン」の潮流が加わったことだろう。
調査会社の米ガートナーは、「スマートマシンとは、自律的に行動し、知能と自己学習機能を備え、状況に応じて自らが判断して適応し、これまで人間にしかできないと思われていた作業を実行する」仕組みであると定義している。自律走行自動車、言葉での質問に答えるバーチャル・アシスタント、工場で人間と一緒に作業するロボットなど、広範な分野での実用化が進んでいる。システムの開発や運用にもこのテクノロジーが組み込まれていくだろう。
もう一つの潮流が、「生産年齢(15歳~64歳)人口」の減少だ。2010年の約8000万人から、2030年に6700万人ほどになるという。直近の5年間(2015~2020年)をみても、7682万人から7341万人と、341万人が減少する(内閣府・平成25年版 高齢社会白書)。人手を増やそうと思っても、構造的に不可能になる。また、人手不足の結果、IT業界では開発現場の疲弊が問題になっているが、このような厳しい労働環境を抱えたままでは、人手不足はさらに深刻になるだろう。
この二つの潮流は、「人数×単金×期間」の収益構造で成長を維持することを不可能にする。ではどうすればいいのか。ポイントは、「ITをお客様に使わせるビジネス」から、「ITを自ら使って、お客様に価値を提供するビジネス」へのシフトだ。サーバーやPCを売る、ネットワークやインフラを構築する、受託開発するといったビジネスを、ここで完結させるのではなく、これに続く「お客様がこれを使って何をするのか」に重心を移してビジネスを考えることだ。これは、積み重ねてきたスキルやノウハウ、顧客資産を放棄して、まったく新しいことに着手しなければならないといった無謀な話ではない。ビジネスの重心を移動するだけの話だ。そうすれば、二つの潮流は脅威ではなく、チャンスになる。時代の潮流を味方にするか、敵に回すかは、そんなわずかな重心の移動だけかもしれない。
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義

斎藤 昌義(さいとう まさのり)
1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。