これまで顧客は、システム関連業務をアウトソーシングしてきた。SIerは、この顧客の要望に誠実に応えることで需要を喚起して収益を上げてきた。顧客も要員不足を避けるべく競争を避けて棲み分けすることにより、SIer要員を囲い込むようになった。その結果、彼らの存在なくしてシステムを維持できなくなっていった。このような相互依存関係が長く続いた結果、売るための努力は、「誠実に仕事をすること、迅速にトラブルに対応すること、無茶な要望にも応えること」と同じ意味となっていった。
しかし、リーマン・ショックを機に、この構図は変わり始めた。需要の低迷でコスト削減や競合はあたりまえになり、東日本大震災や急激な円高によって、経営の先行きは不透明、IT投資は慎重な姿勢になって、案件規模も小型化、人月ビジネスは収益を上げにくくなっていった。
いま再び需要が拡大し始めているが、この状況が長続きするとは考えにくい。数年のうちに需要は急減するだろう。そうなれば、再び同じ問題が顕在化する。加えて、クラウド、オフショア、高速開発などの新たな代替手段の普及や、内製とアウトソーシングの分担見直しなど、たとえ需要が回復しても、これまでの収益構造での成長は難しくなるだろう。
IT部門の役割も問われ、ユーザー部門が意思決定に大きく関与することになるだろう。そうなれば、成果への対価が重要視され、「工数分をお支払いください」は、なかなか通らなくなるだろう。受託開発がなくなることはないにしても、代替手段との競合や収益を上げる作法が変わることは避けられない。
そこで求められるのがマーケティングだ。マーケティングとは、「顧客の求める価値の提供と、その対価としての売り上げを結びつけるプロセス」だ。顧客が求める価値は工数から成果へと変わる。対価の考え方も変わる。それを結びつけるビジネス・プロセスも変わる。つまり、製品やソリューション、サービスをつくることではなく、それも含めた売れる仕組みと新しい収益構造をつくることだ。
マーケティングを広告宣伝と同一視し、セールスと区別せずに顧客の拡大を営業担当者個人の努力に期待することは、もはやできない。事業構造の転換を前提としたマーケティングへの取り組みを加速させなければならない。
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義

斎藤 昌義(さいとう まさのり)
1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。