「何でも90%」はクリアし、商談も部下の管理もそつなくこなすという自称「バランス型マネージャー」の高橋宏之さん。大学卒業後、日本ビジネスコンピューター(現JBCC)に入社し、営業畑を歩みながら、売上達成率300%などの実績を上げる手腕が評価され、36歳のとき、史上最年少で部長に抜てきされた。現在、流通・サービス業の企業にITインフラを提案する部隊を率い、約100社のお客様への営業活動を指揮している。掲げるモットーは、部下の意識改革。提案先の業務をよく知り、経営層にソリューションを的確に提案できるよう、部下に勉強を促している。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/大星直輝)
高橋 宏之(たかはし ひろゆき)
1998年、大学卒業後、日本ビジネスコンピューター(現JBCC)に入社。営業に携わる。トップクラスの実績をつくり、2012年に営業部長に就任。大手から中堅・中小規模まで、流通・サービス業の企業にIT全般を提案するチームを統括している。部下は8人。
若手の力をフルに活用 新しい市場を開拓
●課題を並べて解決策を示す 最近、コンサルティング部隊に所属する同僚の力を借りて、お客様を「研究」する体制を立ち上げた。これまで何回も試みてきたことだが、この1~2年、通常のリプレース提案ではまったく案件の受注ができないという危機的状況に陥ったことで、本格的な取り組みを決断した。お客様のホームページを精読したり、日頃の商談で聞いた話を分析したりして、お客様一社につき5件ほどの課題を洗い出し、ITをどのように利用すれば、それを解決できるかと、知恵を絞っている。これを踏まえて、部下たちはお客様の経営陣を訪問し、プレゼンテーション。課題を列挙して、「こんなふうに解決できます」と、ワンポイントでITの活用法を示す活動に力を入れている。
部下に「これは重要だよ」と説いているのは、存分に“妄想”を膨らませること。大胆な仮説でかまわないので、お客様の経営・業務課題をとことん想像して、オーダーメイドのソリューションを能動的に提案し、売り上げを拡大したい。
●塾に「電子カルテ」を提案 今、若い部下がもつ知識を武器に、新しい市場を開拓しようとしている。8人の部下のなかに、入社2年目で、大学生のときに学習塾でアルバイトをしていた者がいる。学習塾の業務内容にくわしく、業界が抱える課題を把握しているということで、彼に特命を与え、学習塾を運営する約30社の担当にした。
彼が提案の切り口として考えたのは、生徒たちの学習の進捗をデジタルで管理する「電子カルテ」だ。学習塾の講師は、生徒一人ひとりの状況をみるのは難しい。それを、電子カルテによって、生徒たちの弱点や最近の成長を把握できるようにする。さらに、志望校合格率を予測するなどの活用も考えられる。
彼は今、学習塾の運営会社を回って提案活動を進めている。私は、社内でも彼の斬新な提案内容や成果を発表する場を設け、ベテランたちに刺激を与えようと考えている。
●コテージで料理をつくる 私自身も、部下のアイデアを積極的に採り入れている。前期、四半期ごとの実績が評価される「ベストブランチ」を受賞した。その報奨金をどう使うか、部下たちに相談したら、「コテージを借りて、おいしいものをたくさん仕入れて、みんなで料理をつくろう」という案が出たので、一泊で伊豆半島に出かけることにした。全員でスーパーに行き、100g2000円もする和牛など、いつもはなかなか口にできない高級食材を買って、コテージの落ち着いた雰囲気のなかで食べて、飲むという楽しいひとときを過ごした。部下のいつもとは違う顔、例えば「皿洗いをずいぶん念入りにやっているなあ」をみることができて、驚いたり、感心したり。マネージャーとしての勉強にもなった。こうしてより強いチームの一体感をつくり、ソリューションの提案活動を加速したい。
私の営業方針を表す漢字は……「創」
このコーナーですでに2回登場しているという「創」だが、私もこの字を選んだ。これまでシステムのリプレースを主な提案パターンにしてきた当社だが、この手法がだんだん通用しなくなってきた。売り上げをどのように維持・拡大すればいいのか、強い危機感から生まれたのは、業務課題の解決を切り口に提案を創造する手法だ。他社の営業マネージャーも「創」を掲げているのは、業界全体が「ソリューション」に挑んでいる動きを反映したものだろう。