人間がバイオテクノロジーによって生み出した「ミュータント（突然変異体）」が、バトルを繰り広げるSF映画「X-MEN」。最新作もハリウッド映画らしく、ありえない近未来の世界ながらも、映像とストーリーのテンポのよさにどんどん引き込まれていく。ここで映画の評論をするつもりはない。ただ、ITの進化のスピードからすると、“現実になるかも”と思うシーンがいくつも出てくる。

　人工知能（AI）研究の分野で世界的権威のレイ・カーツワイル氏が、数年前にグーグルに入社した。同氏は、1999年に「自動運転の自動車」「携帯電話が人と会話する」ということが、その先の10年前後で実現すると予測している。次なる予測として、カーツワイル氏が挙げるのは「血球サイズのチップが脳に埋め込まれる」である。実現するのは、2030年だという。しかも、そのチップに記憶された情報は、クラウドに蓄積できるとしている。

　ここからは推測だが、記憶した情報は出し入れが可能だろうから、暗記が不要になる。ちょっとしたことを思い出せなくても、蓄積した情報が教えてくれる。それだけではない。大量に蓄積され、ビッグデータ化した自分の情報から、脳内では無理だった何かしらの「知見」を得られるかもしれない。

　カーツワイル氏の予測はSFのようだが、その要素技術はすでにある。あらゆる情報の格納を目指すクラウド上のストレージ、ビッグデータの高速処理技術の進歩、際限なきチップの小型化、そして、IoT（Internet of Things）の普及など、枚挙にいとまがない。同氏のいう「脳内チップ」は、倫理問題さえクリアできれば、本当に実現しそうだと思えてくる。

　グーグルを競合視する、ある外資系ITベンダーは、グーグルの検索エンジンの使用を禁止している。誰が、いつ、どんな用語を検索し、どの程度の滞在時間だったかなどのデータを分析すれば、その企業が何をしようとしているかがバレてしまう可能性があるからだ。そのリスクはどの企業にも共通するが、検索エンジンはもはや社会インフラ。簡単には使用禁止にできない。

　世界ではビッグデータの活用を巡って、水面下で激しい攻防戦が繰り広げられている。企業活動であれば、脳内チップを使うまでもなく、現時点の技術でビッグデータを有効活用できる。「知見」を得るための環境は整っている。