「図書館によるベストセラー作品の複数購入」が、ここ数年、書店界の懸案事項になっている。住民へのサービス強化を図る図書館が、人気のあるヒット作を何冊も蔵書することで、書店で購入する読者が減っているからである。

　最近の図書館では、人気作品なら100人待ちなんてことは珍しくない。無料で読めるなら、半年待ってもいいという利用者が増えて、書店の売れ行きはさっぱりだ。図書館のなかには同一銘柄を5冊、10冊と仕入れるところもあって、蔵書の増加に拍車がかかるばかりである。

　そんな現象を表す数字を少しだけ紹介することにする。2002年、書店での書籍販売数は7億3900万冊。それに対して、公共・学校図書館の貸出冊数は5億5700万冊だった。書店での販売が図書館の貸出冊数を上回っていたが、それは2009年に逆転してしまう。その後2012年には、書店販売数が6億8700万冊、図書館の貸出冊数が7億4400万冊となり、その差は年を追うごとに広がっている。

　最近、図書館はベストセラーばかりでなく、雑誌やムック、CD、DVDと多岐にわたって品揃えを充実させている。この稿を読んでいる方々も周知のことだろう。カフェも併設された館内には、とくに定年を迎えたシルバー層の姿が目立つようにもなった。

　出版界では、「資料の保管を目的にする本来の図書館のあり方と違う」という声が相次いでいる。図書館で繰り返し読まれても著者に印税が入らず、「知の再生産」ができない問題も深刻だ。新刊書やコミックスについて、発売から一定期間を経過したあとに貸し出しをさせる制限措置を訴えるも、図書館法の前には無力だ。

　そんななか、紀伊國屋書店、講談社、KADOKAWAの出版・書店界を代表する3社が株式会社日本電子図書館サービスという株式会社を昨年10月に設立した。そして今年10月14日から、実証実験として、山中湖情報創造館（山梨・南都留郡）という図書館で電子書籍の貸出サービスを始めた。まずは1500のコンテンツを無料で貸し出せるようにし、実験拠点を増やしながら、来年4月から本格稼働する。貸し出しを促すサイト上に、本を購入できるサイトも案内することで、地域の書店の来店・通販需要を高めようというのが狙いだ。電子書籍が書店を助ける材料になるのか、注目に値する。