まだIaaSに偏っている感は否めないが、クラウドサービス市場が賑わいをみせている。それを裏づけるように、私どもが取り扱うクラウドサービスブローカー(CSB)の技術・製品にもたくさんのお問い合わせをいただくようになってきた。「クラウドサービスブローカー」という言葉をインターネット検索にかけてみれば、いかに多くのIT企業がその関連事業に取り組み始めているかご理解いただけることだろう。ようやくCSBという概念が市場に定着してきた。
そのようななかで、私どもに相談にこられる方々に共通する悩みは、CSBをクラウドサービスの流通再販事業として捉えた場合、十分な収益性のあるビジネスモデルを描ききれないことにある。海外ではすでに広域マーケットを捉えた大規模なCSB事業者が立ち上がってきているが、国内市場に主導的なCSB事業者が現れるにはもう少し時間を要するかもしれない。その一方で、クラウドサービスを利用するユーザー側の立場でみれば、購買管理をはじめ、プロバイダの異なるマルチクラウドサービスの導入・統合・運用管理を行うための体系としてのCSB技術への関心が高まっている。いわゆるインターナルCSBである。数百人規模の企業がSAP製品を使っているところへ、セールスフォースのソリューションを導入し、さらにOffice 365を利用するに至って、管理負担の高まりに気づき、それを統合管理できるクラウドサービスを探しているという話も聞こえてくる。
クラウドサービスを集積し、サービスカタログを提示し、課金代行を行うことで、ユーザーのクラウドサービス導入負担を軽減するエクスターナルCSBは国内市場にも以前からみられたが、この種のエクスターナルCSBが提供する機能だけでは組織内でクラウドサービスを活用するための最適解は得られない。エクスターナルCSBがクラウドサービスの流通再販業務を支援するものであるのに対し、インターナルCSBは情報システム部門やシステムインテグレータによるクラウドサービスの購買・運用・管理等の業務を支援するものである。パブリッククラウドサービスを活用するためには、プライベートな情報システム環境とのシームレスな統合と、全体を見渡せる運用管理体系が不可欠である。その意味で、その担い手たるべき情報システム部門やシステムインテグレータにとってインターナルCSB技術の適切な選択がカギとなる。
一般社団法人みんなのクラウド 理事 松田利夫
略歴

松田 利夫(まつだ としお)
1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。