日本情報技術取引所(JIET)には、SESや下請け開発を主力事業とする会員が多い。しかし、派遣先や元請けの都合に左右されるビジネスでは先を見通すのが難しいことから、小規模であってもプライムの開発案件を志向したり、顧客の課題に合わせたソリューション提案を軸に新たなビジネスの柱を立てようという動きが活発化している。近年、海外にも活動範囲を広げてきたJIETは2017年に台湾・台北支部を立ち上げたが、同支部の活動では、国内会員のこうしたビジネスモデル変革の動きを捉えたビジネスマッチングにより、地元会員の成長を図る。
台湾IT市場の
ビジネスモデルに注目
JIETの台北支部設立は、17年当時、国際委員会の委員長を務めていた齋藤康嗣氏(アイビーウェア会長、現国際委員会委員)が主導し、そのまま初代の支部長に就任した。昨年、齋藤氏の後を受けて就任したのが、境田稔穂支部長(SPLアネッグ代表取締役)だ。
台北支部 境田稔穂 支部長
境田支部長が率いるSPLアネッグは、実は台北支部開設とほぼ時を同じくしてJIETに加入している比較的新しい会員企業だ。「当社のビジネスはSESが主体だったが、今後の事業環境や安定した成長を考えた時に、もう一つの柱をつくるべきだと考えていた。その際に注目したのが、台湾のIT産業のビジネスモデルだった」と振り返る。
台湾のIT産業のビジネスモデルとはどのようなものなのか。境田支部長は次のように説明する。「台湾のITベンダーはベンチャー企業やスタートアップ企業が多いが、要素技術の研究や最新テクノロジーを活用した画期的なプロダクト開発を目指すという感じではない。既に市場に普及した技術や製品をベースに、カスタマイズしたりインテグレーションしたりして、特定の業種・業界・業務の現場で使えるソリューションを開発するようなビジネスを展開している企業が多い」
SPLアネッグとしては、こうしたビジネスモデルを吸収するとともに、ビジネスパートナーとして自社商材開発で連携できる台湾企業を探すことも念頭に、JIET台湾支部に参加したかたちだ。自社のビジネスで台湾企業との関係構築を本気で考えているという背景もあり、齋藤前支部長や当時の酒井雅美・JIET理事長(現副理事長、バリューソフトウェア社長)の強い後押しで境田支部長が就任した。
日本に進出したい
ソリューションベンダーが多い
台北支部はもともと、台北のSIerに日本のオフショア案件を請け負いたいというニーズがあると見込んだことが、大きなきっかけとなって設立された。しかし、現在の台北支部は、必ずしも日本のオフショア開発案件を台湾の会員企業に紹介することが活動の中心ではないようだ。
現在、台北支部の会員企業は10社で、うち9社が地元企業だ。そのほとんどが、“台湾型ビジネスモデル”により自社独自商材の拡販に注力している企業だという。境田支部長は「台湾の市場は小さいので、多くの台北支部会員は日本でビジネスをしたいと考えていて、そのための販路を開拓しようとしている。JIETの国内会員とそうしたパートナーシップを促進していきたい」と話す。
他の海外支部やIT業界団体と連携した商談会も積極的に企画していく
台北支部会員の日本におけるパートナー開拓は徐々に事例も出てきつつある。ただし、順調に成果が出ているとも言えないのが実情だ。台湾内で年4回の商談会を開いているほか、JIETの国内商談会に台北支部会員が参加するといった取り組みは進めているが、国内ではまだまだSES主体の会員も多く、うまくマッチングできないことも。境田支部長は、脱SES、脱下請けを目指す国内会員にとって台湾ベンダーの商材が有益な商材になり得ることを認知してもらうべく、支部会員の情報発信をサポートしていく意向だ。さらに、他の海外支部やIT業界団体とも連携して、参加者の裾野を拡大した組織横断型の商談会を積極的に企画し、マッチングの可能性を高めていきたい考え。ただし、新型コロナ禍によりフィジカルなイベントは当面開催予定が見えないという課題もある。「JIETが推進しているWeb商談会などにも積極的に参加するよう、支部会員には促していく」(境田支部長)としている。