視点

究極の「QC活動」とは形骸化との闘い

2023/07/05 09:00

週刊BCN 2023年07月03日vol.1975掲載

 演歌歌手の五木ひろしは、歌を崩さない。何千回、何万回と歌うと知らず知らずのうちに飽きてくるので、飽きを解消するために少しずつ歌を崩す場合があり、劇場で聞くと多くの歌手が崩している。

 彼はある番組で「私は毎日同じ歌を歌う。その日に来ていただいたお客さんは初めてかもしれないし、もう二度と来ないかもしれない。そんな方に歌を崩して歌うのは大変失礼です。歌手の良識として自分の持ち歌は崩しては歌いません」と答えていた。

 企業の「QC(品質管理)」活動も同じである。スタートした頃は新鮮だが、毎日同じ活動をすると、やがて飽きて形骸化が始まる。多くの企業のQC活動は、この形骸化との闘いになる。製品劣化や事故の多くは、この形骸化から発生していると言っても過言ではない。

 このQC活動を徹底的にやっている会社がある。各種粉体を自動的に生産、計量、輸送する粉体ハンドリング機器を製造、販売する赤武エンジニアリング(静岡県沼津市、赤堀肇紀社長)だ。この会社の徹底ぶりは半端ではない。

 第一は見える化である。それぞれの現場では事務室を含めてQC活動以前と今の写真が大きく対比して張り出されている。雑然としていた現場ときちんと整理された今の現場が一目瞭然で分かる。

 第二は5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)パトロール隊の編成である。このチームは5人で毎月メンバーが変わる。毎月1回社内をくまなくパトロールし、結果は朝礼などで報告する。日本のQC活動の多くは自分のセクションがチェックするが、同社は他のセクション、いわば他人の目で行う。さらに5S見学も積極的に受け入れ、外部の目によるチェックも加えている。

 第三は活動の数値化である。同社はこれまでQC活動にどれだけお金をかけてきたのか。これを項目ごとに常に把握している。ちなみに今年5月末現在の累計金額は3億7400万円である。

 赤堀社長は「粉体ハンドリング機器は医薬、食品、電子、化学などあらゆる業種にユーザーを抱えている。まあいいか、で済ませていると大変なことになりかねない。しかし、この地味なテーマを常に経営の正面に据えて会社を運営するのは正直大変だ」と本音を語る。

 
アジアビジネス探索者 増田辰弘
増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
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