鹿児島県で地元のITを支えるSlerである南日本情報処理センター。地場産業の畜産を支援する管理システムを全国に展開し業績を伸ばしている。一方で、人口減を背景にIT人材の確保に苦心。中村洋社長は、継続的な成長のため人材育成に注力する。自治体向けシステムも長年提供している同社に、一歩先を見据えた戦略を聞いた。
(取材・文/堀 茜)
──展開している事業の紹介を。
システム開発をメインに、自社開発したパッケージ製品など幅広いITソリューションを提供している。民間企業向け、自治体向け、医療機関向けの三つが大きな事業の柱になっているが、当社はもともと鹿児島市の税務業務の受託開発からスタートしており、自治体向けの基幹業務システムを数多く手掛けている。
鹿児島県は離島が多く、数千人しかいない小さな村が自前の基幹システムを持つのは難しいという事情がある。県内自治体の半数を超える26の市町村が、当社の基幹業務システムを共同利用している。個別のカスタマイズができない分、価格を抑えて提供できるのが特徴だ。
──顧客は鹿児島県内が多いのか。
売り上げは県内が65%、県外が35%。特に医療系ソリューションはパートナー販売の割合が高く、県外でも広く展開している。自社開発した介護トータルシステム「寿」はSaaSでも提供しており、SaaSの割合が高まっている。
蓄積したノウハウで全国に展開
──多様なサービスを提供する中でも特徴的な製品は。
鹿児島県の主要産業の一つである畜産関連だ。鹿児島は黒豚が有名だが、牛肉も鶏肉も生産量が多く名産になっている。そういった産業の発展を支援するため食肉管理システムや家畜せりシステムなどを独自開発した。県内だけでなく、全国各地の食肉センターや家畜市場などに納入している。
中村 洋 社長
──地場産業から生まれた製品の強みは。
畜産に特化した業務ノウハウの蓄積があるため、コンサルティングも含めた提案ができる点だ。食肉関連の業界では、当社の名前がかなり認知されている。全国から引き合いがあり、ホームページなどから直接問い合わせをいただくことも多い。
──事業の柱の一つが医療とのことだが、県内でニーズは高いのか。
鹿児島県は人口減少率が高く、エリアによっては病院経営が厳しくなっているところもある。デジタル化による効率化のニーズはあると思っている。中小の医療機関向けに電子カルテなどのラインアップをそろえている。医療や介護系の製品は競合も多いが、単一の製品ではなく、いろいろなものを組み合わせて効率化できないかといった、製品の合わせ技での引き合いは出てきている。
──地元企業の関心が高いIT分野は何か。
お客様から一番に話が出るのは、セキュリティー対応をどうするかという悩みだ。当社ではセキュリティー対策統合管理ツール「SecureSeed Plus」を提供している。一番使われる機能に絞り、中小企業をターゲットに展開している。中小企業もサイバー攻撃の標的になる中、セキュリティーとネットワークを一体的にサポートしてほしいという需要が高い。
長期研修で人材育成
──持続的な成長のために課題になることは何か。
人材確保だ。鹿児島県は人材流出県で、若い人は都会志向が強い。そういった人たちにいかに地元に残ってもらうか、(進学などを経て)戻ってきてもらうか。当社で好調な畜産関連システムは、すべて直販で販売からサポートまで行っているが、引き合いがあっても人的リソースが足りないといったことが起きており、協力会社にお願いして何とか仕事を回している。働きやすく魅力的な企業にならないと人材を集めることはできない。
──人材確保のために取り組んでいることは。
社員の育成機関として、2年前に「Human Resource Laboratory」を立ち上げた。新入社員はこれまで3カ月の研修後、現場に配属していたが、エンジニアといったIT人材の育成は短期間では難しい。新制度では、1年半から3年を研修期間とし、OJTも組み合わせて教育している。現場が指導する負担も軽減され、うまく回り始めている。地元で活躍するIT人材の受け皿となり、人材を育て続けることが事業継続の核になる。
地域特性をITで支援
──鹿児島県のITをけん引する企業としてどんな役割を担っていくか。
鹿児島県は人口減少、超高齢化という課題に対応しなくてはならない。人口が減る中でも自治体の仕事は減っていない。民間企業も医療機関も、働き手が減少する中、働き方改革にITがどう寄与するかが求められる。地域貢献という創業以来の当社の役割を、今後より明確に果たしていく。
──将来的な事業の構想は。
長年受託開発メインでやってきているが、引き続きそれを増やしていくには限界がある。自治体向けの基幹業務システムも、政府主導のガバメントクラウドが導入されれば、当社の立ち位置も変わらざるを得ないし、導入に向けて社内で議論し対応を準備している。
現状維持ではなく、業績を伸ばしていくには、オファリング型でのサービス提供が必要になっていくと考えている。お客様が抱える問題や課題の本質を見抜き、ITによる解決案を提案できるような会社にしていきたい。顧客にとって何が最適かということを常に意識しながら、受託開発とオファリングの二本立てで成長していく。
Company Information
1969年創業。南日本新聞社とNECが主要株主のSler。鹿児島市の本社のほか、東京、大阪、福岡などに拠点を持つ。システム開発に加え、介護系SaaSの提供、データセンターの運用なども行う。2023年度の売上高は77億5400万円。従業員数は416人(24年2月現在)。