大阪に本社を置くネクストウェアの顔認証プラットフォームや業務自動化ソフトのRPAを使ったビジネスが、堅調に推移している。顔認証したあとのアクションを自動化するのにRPAを役立てたり、取得したデータ活用に持ち前のデータベース技術を組み合わせたりすることで、データを起点としたユーザー企業の新規事業の創出を支援。顔認証とRPA、データ活用を巧みにつなぎ合わせた特色あるビジネスを推進している。また、子会社のOSK日本歌劇団ではライブビューイングなどITを駆使したコンテンツ配信に力を入れることで収益力を強化している。
(取材・文/安藤章司)
生産性重視へと働き方が変わる
――コロナ禍の約3年間でビジネスはどう変わったか。
社会全体のデジタル化の勢いが増したのと並行して、当社自身の働き方も大きく変わった。当社グループの従業員約220人のうち、東京と名古屋の拠点に60人ずつ配置しているが、東京オフィスに勤める従業員の実に7割がリモートワークを実践するようになった。勤務場所と時間の制約を取り払うことで、2023年4月1日から人事評価の仕方も労働生産性をより重視するようにした。柔軟性が高く効率的な働き方の実践と報酬が連動しやすい仕組みに変えている。
――リモートワーク中心の働き方に移行するということか。
基本的にはそうだが、本社はリモートワークを積極的に活用している割合が2割ほどで、リモートワークの活用度合いは東高西低の状態だ。名古屋オフィスも製造業の顧客先に出向いた現場作業の比率が高いこともあり、東京ほどリモートワークの比率は高くない。大阪や名古屋は、東京に比べて通勤ラッシュがそれほど過酷ではないことや、生活様式の違いからくるものと推測している。地域によって状況は異なるが、働き方の自由度を高めて労働生産性を重視していく方針に変わりはない。
豊田崇克 社長
顔認証とRPAを防災・防犯に役立てる
――豊田社長は業界団体のソフトウェア協会(SAJ)副会長を務めている。ネクストウェアはソフトウェア販売が軸となっているのか。
当社の事業セグメントは、大きくはITソリューション事業とOSK日本歌劇団事業の二つ。ITソリューション事業の約半分を業務自動化の顔認証とRPA関連が占め、残り半分をデータベースを軸としたSI事業が占めている。顔認証は米RealNetworks(リアルネットワーク)が開発したAI顔認識プラットフォーム「SAFR(セイファー)」をベースとしたソリューションで、RPAは純国産のWinActorと米UiPath(ユーアイパス)の製品を主に取り扱っている。
――顔認証とRPAの製品を主軸に据えているのはどのような狙いか。
顔認証は何か目的があって行うもので、その目的を達成するためのアクションの自動化にRPAは非常に役立つ。顔認証とRPAの組み合わせは当社ビジネスの特色にもなっている。顔認証と勤怠管理システムを連動させ、RPAで業務処理を自動化する用途はもとより、例えば防災分野で避難所に避難してきた人を顔認証し、名簿を自動作成したり、遠く離れたところに住んでいる家族に無事を知らせたりするアクションをRPAによって自動化するといった用途にも応用できる。
ほかにも、小売店舗で万引き常習犯が入店した瞬間に顔認証で判別し、店員に知らせる需要が高まっている。当社の万引き防止ソリューションをより広く知ってもらうため、22年12月には認定個人情報保護団体で工業会の日本万引防止システム協会に加入した。高齢化で認知症を患った高齢者がお金を払わずに商品を持ち帰ってしまうケースが増えており、そうした場合は家族への通知をRPAで自動化するといった使い方もできるだろう。
コンテンツ配信でピンチをチャンスに
――データベースを軸としたSI事業のほうはどうか。
顔認証を使うと膨大なデータが蓄積するが、そのデータを適切に分析してビジネスに役立てることが求められている。ユーザー企業がデータを起点に、独自性が豊かで、競争力のある新しいビジネスモデルを打ち立てる際に、当社が持つデータベースやデータ分析の技術が大いに役立つ。
過去にはITで業務を合理化する点に価値があったが、今はそれに加えて新しいビジネスモデルを創り出す領域に、より大きな価値が置かれるようになっている。顔認証とRPA、データベースは一見するとバラバラの技術のようにみえるが、当社のなかでは隣接しており、相乗効果を高められる事業ポートフォリオだと手応えを感じている。
――OSK日本歌劇団事業についても教えてほしい。
かれこれ10年ほど歌劇団に関わっている。突然のコロナ禍で移動制限がかかり、歌劇団のビジネスは窮地に立たされた。22年に創立100周年を迎えた長い歴史を絶やさないためにも、ライブビューイングやコンテンツ配信など当社の持つデジタル技術を駆使して乗り越えた。映像配信先のうち海外が約2割を占め、海外ファンの開拓につなげることができた。ピンチをチャンスに変えて劇団を一段と盛り上げていく。
Company Information
本年度(2024年3月期)連結売上高は前期比3.8%増の30億円、営業利益は3000万円(前期は2500万円の赤字)の見込み。大阪に本社を置き、東京と名古屋に拠点を展開。従業員数は約220人。グループ傘下にOSK日本歌劇団を持つ。