<企業概要>
米本社は2005年に設立。2800を超える顧客を持ち、主力製品はFortune500の約半数の企業で利用されている。日本法人は18年に設立。21年に国内での事業を本格化。大手製造業や保険業、金融業、製薬業、サービス業に導入されている。
グローバルで実績のあるソリューションベンダーの国内参入が続いている。日本法人を立ち上げ、国内でビジネスを本格化する外資系ベンダーは、どのような勝ち筋を思い描いているのか。第3回は、アイデンティティー・ガバナンスソリューションを展開する米SailPoint Technologies(セイルポイントテクノロジーズ)の日本法人に戦略を聞く。アイデンティティーを起点にしたアクセス権の内部統制の徹底で企業のコンプライアンスの強化を支援する同社は、ERPの刷新のタイミングが商機になるとし、パートナーとの連携で市場の拡大を目指す。
(取材・文/大畑直悠)
全社で整合性のとれた権限管理を実現
セイルポイントテクノロジーズは、各アイデンティティーのライフサイクルやポリシー管理、アイデンティティーにひもづけた権限の一元的な可視化といった機能を持つ「SailPoint Identity Security Cloud」と、その基盤として自動化に必要なデータモデルやアクセス履歴などのインサイト、外部連携に必要なAPIなどを備える「SailPoint Atlas」を提供する。
藤本 寛 社長兼本社バイスプレジデント
日本法人の藤本寛社長兼本社バイスプレジデントは「企業が利用するシステムが増加する中、入り口の部分のセキュリティーや利便性を上げるシングルサインオン(SSO)、多要素認証を中心としたアクセス管理製品の導入は進んでいるものの、それだけでは権限のチェックが手作業のままで、管理負荷が高いという顧客は多い」とし、アイデンティティーを起点に権限の一元管理や可視化、コントロールができる同社のアイデンティティー・ガバナンスソリューションへの注目が集まっているとする。
SailPoint Identity Security Cloudは、ERPなどの連携システム側で起きた権限の変更を自動で同期することで、システム間の権限のずれを防止できるのが特徴だ。多くのアクセス管理製品がカバーしていないSSOの範囲外のさまざまなITシステムと統合することも可能。藤本社長は「アクセス管理製品だけではなく、当社のアイデンティティー・ガバナンスソリューションの導入によって、顧客は全社で整合性のとれたアイデンティティーとシステムの利用権限を統制でき、コンプライアンスを強化できる」とアピールする。
また、非正規社員のアイデンティティーについては、部門ごとに管理されるためアクセス管理が不透明で、手作業による管理でリスクが高まっていると指摘。同社では、非正規社員を登録するマスターシステムと、非正規社員の雇用形態や業務形態に応じてアイデンティティーの作成や削除などのプロセスを構築できるフォームとワークフローを用意し、これをSailPoint Identity Security Cloudに統合できる。
国内でも、アイデンティティー・ガバナンスへのニーズは高まっている。塩野義製薬では、社内で利用するアプリケーションの増加やマルチクラウド化が進んだことを背景に、セイルポイントのソリューションで6500人のアイデンティティーを一元的に管理すると発表しており、2024年6月に稼働予定だ。30年までにヘルスケアをサービスとして提供する企業への変革を目指す同社は、アイデンティティー・ガバナンスの導入で社内外の共創を安全に推進するとしている。
再販パートナーとの協業に注力
拡販に向けてはパートナー戦略を重視する。現在、コンサルティングパートナーや再販パートナー、システム構築などのリソースを担うアライアンスパートナー、テクノロジーパートナーがおり、各パートナーが連携して顧客への提案や導入を進めているという。藤本社長は「アイデンティティー・ガバナンスのコンセプトを理解して、市場形成に熱い思いを持つパートナーと協業している。当社もハイタッチ営業で需要を喚起しつつ、市場の広がりに合わせてパートナーエコシステムを拡大していく」と意気込む。
特に、再販パートナーとの協業に注力するとし、藤本社長は「顧客と深い関係を持つ再販パートナーと連携しシェアを拡大する。すでに何らかのかたちで顧客のアイデンティティー管理を支援していると思うが、そこを当社の技術を活用しながらアップデートしてもらいたい」と呼び掛ける。
今後は、製造業や製薬業、金融業を販売ターゲットとし、各業界の事例の創出で横展開を狙う。また、ERPの刷新が商機になるとする。これまでERPの内部で権限設定をしていた企業が、基幹システムの刷新のタイミングで、システムのアップグレードや新たに導入するシステムとの連携を柔軟に対応できるようにする目的で、アイデンティティー・ガバナンスの基盤を構築する動きがあるいう。また、藤本社長は、各システムが疎結合型で連携するERPの普及もアイデンティティー・ガバナンスの市場の拡大に寄与するとの見方を示し、「ERPの刷新のタイミングは、顧客が当社のソリューションの導入を考えるタイミングだ。SAP製品に強みを持つコンサルティングパートナーなどと連携しながらプロジェクトに落とし込んでいきたい」と力を込める。
米本社からの期待は高いといい、藤本社長は「日本法人は本社直轄として、大きな期待を寄せられている。同時にリスクの低減を重視する日本市場の特殊性も理解してもらえており、東京のデータセンター設置は本社からの呼びかけがあって進めた」と紹介する。