那覇市のセキュアイノベーションは、地元発の企業として2015年に誕生し、全国の幅広い企業にセキュリティーサービスを提供している。栗田智明社長は、沖縄のIT企業であることに強いこだわりを持っており、人材育成やサービス展開を地域密着型で進める「地産地消」のビジネスモデルの確立を目指している。
(取材・文/齋藤秀平)
沖縄のIT産業を豊かにしたい
──沖縄で会社を設立したのはなぜか。
私は名古屋出身で、04年から沖縄に住んで別のIT企業の代表を10年ほど務めた。退任後、大阪のセキュリティー企業や県内企業などと連携し、サイバーセキュリティーに特化した会社としてセキュアイノベーションを設立した。人件費の安い若い人材がたくさんいることで沖縄が注目されてきたが、これからは「高くても沖縄」と言われるような事業を立ち上げたいと考え、付加価値の高い人材を育成し、全国にサービスを提供することを目指した。沖縄の企業であることにこだわったのは、地元のIT産業をもっと豊かにしたいとの強い思いがあったからだ。
──サイバーセキュリティーに特化した理由は。
当時のセキュリティー市場は大企業向けが中心で、地方の企業や中堅・中小企業がお金をかける時代ではなかった。人材も不足していたし、そもそもサービスを提供する企業が地方にはほぼなかった。ただ、セキュリティーは絶対なくならない領域だとみていたので、会社を設立する約1年前から沖縄でセキュリティー事業をするならどういうことができるかを考えていた。
──これまでのビジネスの状況は。
会社を設立した当初は本当に苦労した。セキュリティーの場合、事業を手掛けている企業からスピンアウトしたり、大手企業が合弁会社をつくったりするようなケースが多い。当社はそうした出自ではないため、「沖縄のセキュリティーベンダーができました」と言っても、発注してくれる会社はなかった。ただ、人材育成をしっかり進めて事業に取り組む方針をぶれずに続けた結果、徐々に人が育ち、それに伴って顧客からの信頼を獲得できるようになった。
常に新しいチャレンジに取り組む
──どの事業が主力か。
セキュリティーオペレーションセンター(SOC)の運営とセキュリティー診断の事業が中核だ。SOCとセキュリティー診断のサービスは、経済産業省の「情報セキュリティサービス基準」に適合しており、この点は顧客からの評価ポイントになっている。さらに、これらの事業のノウハウを生かしたサイバー攻撃早期発見サービス「EISS(アイズ)」を自社開発した。EISSは、PC端末から収集したログの分析や報告を低コストで実現できるのが特徴だ。専門知識がなくても利用できるため、中小企業をターゲットに販売を進めている。ほかにもセキュリティー診断サービスの対象にIoT・車載を加えるなど、常に新しいチャレンジに取り組んでいる。
──顧客の割合や規模は。
顧客は県外が約8割で、残る約2割が県内だ。県外では、北海道から九州まで顧客がいるが、多いのは関東以西だ。販路としては、SIerやセキュリティー企業、コンサルティングファームといったパートナー経由の売り上げが6割となっている。顧客の規模では、直販では中堅企業との取引が最も多く、パートナー経由はグローバル企業から中小企業まで幅広い。
──販売拡大に向けた戦略を。
当社は営業担当をあまり抱えておらず、各企業に対して積極的に営業するのは難しいので、パートナー経由での販売拡大に注力する。既存のパートナーとの関係を強化し、並行して新規パートナーを増やしたい。特に各地の中小企業にサービスを利用してもらうためには、地元に根付いているITベンダーの存在が欠かせないので、将来的に一緒にビジネスを展開することも視野に入れた提携ができればと考えている。また、セキュリティーのサービスを拡充したいと考えている企業とは、再販やOEM提供での連携が可能だ。
セキュリティービジネスの集積地に
──課題はあるか。
今の事業で人材不足は起こっていないが、顧客からのニーズに応えるためには足りないのが課題だ。顧客が増えるにつれて、情報システムだけでなく、ロボットやOTなど、今までにないジャンルへの対応が必要になるので、人を増やし、質も上げていかなければならない。
──今後に向けた抱負を。
コロナ禍以降、セキュリティー対策への中堅・中小企業の意識は高まっている。市場は広がっているが、同時に競合も増えていると感じている。沖縄のIT業界に目を向けると、全国的な動きと同じように今のところ好調と言える。受託開発の人材が多かったことがベースとなり、高度な知識や技術を持った人材が増え、ITを駆使したベンチャー企業もどんどん生まれている。ただ、事業を拡大させるために人を確保するのが大変だとの声は聞く。
中期事業計画の一つの方向性として、地域密着型で人材を育成し、その地域に寄り添ってビジネスを展開する「地産地消」のビジネスモデルの確立を目指しているので、引き続き沖縄での人材の育成やサービスの開発を進める。それに加え、沖縄をセキュリティービジネスの集積地にしたいと思っている。そのためには、高度な人材や、セキュリティーに関わりたいという人の受け皿となる職場が必要なので、核となれるように会社をさらに成長させていく。
Company Information
2015年10月設立。セキュリティーオペレーションセンターの運営やセキュリティー診断サービスなどを手掛ける。那覇市の本社に加え、東京、名古屋、大阪、福岡の各都市に拠点を置く。