熊本市のKISは、自治体や流通、製造など、幅広い業種を対象にビジネスを展開している。直近では、半導体工場向けの事業が業績をけん引し、自社開発したパッケージへの引き合いも堅調だ。平木実社長は「会社創立以来、50余年にわたって積み重ねてきた知見やノウハウが大きな武器になっている」と胸を張る。
(取材・文/齋藤秀平)
受け継がれる現場を大事にする姿勢
──どのような領域でビジネスを展開しているか。
当社は、公共・クラウドソリューション、流通ソリューション、半導体ソリューション、産業リューションの四つの事業部でICTソリューションサービスを展開している。顧客は、熊本を中心とした九州が半分で、残りは他地域となっている。顧客に対しては「古きから学び、新しきを創る」を意味する造語「温古創新」を社是に価値を提供している。
──自社の強みは。
長年にわたって蓄積してきたノウハウや知見に加え、現場に強い人が多いのは強みだ。使っている技術は最先端とは言えないかもしれないが、社員はそれぞれの現場の業務を熟知しており、それがビジネスにつながっている。現場を大事にする姿勢は昔から一貫しており、経営層や社員が代替わりしても受け継がれている。
──業績の状況は。
2020年以降は売上高が右肩上がりになっている。23年度の売上高は49億9300万円で、ほとんどをSI関係が占めている。業種別では、製造業のうち、IT投資の意欲が旺盛な半導体工場向けの事業が主力で、稼ぎ頭になっている。当社は約50年にわたって半導体工場向けの事業を手掛けており、顧客には豊富な実績を評価してもらっている。半導体製造工場を対象に、全製造工程に対してサービスを提供できる点は、他社との差別化要素になっていると言えるだろう。
「みちびき」の活用で特許を取得
──自社開発したパッケージも提供している。
代表的なのは水道ソリューションだ。当社は、水道事業の料金徴収に関するパッケージシステム「SUIBIZ plus」「Smart検針システム」を主軸としたソリューションを展開し、九州や中国、近畿、北海道などの自治体に導入していただいている。最近では、準天頂衛星「みちびき」の活用によって水道メーターの位置を高精度で捕捉し、検針などを支援する仕組みで特許を取得した。GPSを使った場合は誤差が10メートル程度となるが、みちびきを活用した場合は1メートル程度の誤差で位置情報を受信できるのが特徴だ。
KIS 平木 実 代表取締役社長
また、流通業向けソリューションとして、自動販売機オペレーター向けのクラウド型販売管理システム「iVENUS」と、自販機オンライン管理ソフト「iLibra」を提供している。導入実績は計約75社で、大手コンビニエンスストアや食品メーカーなどに向けたカスタマイズも実施している。順次、機能を強化しており、今秋には、iVENUSやiLibraの情報をAIへ連携し、訪問計画などを最適化できるようにする予定だ。
ほかには、電子カルテの病棟看護師業務情報を大画面でマルチに表示できる医療機関向けソリューション「Nurse Board」を23年4月に発売し、24年4月に顧客の声を反映した最新版をリリースした。
──課題は。
ほかの業界と同じように、人が足りていないのが大きな課題だ。当社のパートナーも手一杯との声が多く、単金も含めて調整しながらやっている。人手不足はさらに厳しい状況になると予想されるため、海外人材やオフショア開発の活用を真剣に考えようと思っている。人がいればもっとニーズを取り込めるものの、ノウハウを身につけるには時間がかかる。社内では、新入社員の段階から経験を積んでもらうようにしているが、その辺りをどうするかも検討していかなければならない。
社員の成長を最優先に
──地元のIT活用についてはどのようにみているか。
熊本の中小企業の間では、ITに投資するよりも設備強化を優先する傾向が強く、ITの活用はまだこれからといった状況だ。そのため、地元の肥後銀行と同行のグループ会社である九州デジタルソリューションズと共に、連携協定を結んで地域の中小企業のDX推進に向けて動いている。まずはITの必要性などについて意識改革を促し、その上で当社のノウハウをしっかりと地元に還元し、将来的にビジネスにつなげていきたい。
──今後の展望と意気込みを。
半導体の領域はこれからも需要が期待できるため、引き続きしっかり取り組む。ただ、これまでの歴史を見ると、浮き沈みが激しい領域なので、それ頼みではだめだと思っている。しっかりとバランスを取るためにも、水道や医療などについても次のステージに向けて仕込みを進める。
企業が成長するためには、何よりも社員が成長することが大切なので、それを最優先にしている。何でもいいから自由に毎月8時間、勉強するようにと呼び掛けた結果、2年くらいでようやく月平均8時間近くの時間を使ってくれるようになった。生成AIやVRなど、学習する対象はさまざまだが、習得した成果が会社の事業に生きればいいと思っている。
Company Information
1970年6月創立。NECのグループ企業。コンサルティングサービスやシステム構築サービス、システムとソフトウェアの設計・開発・保守などを手掛ける。2023年度の売上高は49億9300万円。24年4月1日現在の従業員数は311人。