松江市に本社を置くネットワーク応用通信研究所は、主に受託開発を手掛けており、オープンソースソフトウェア(OSS)に関する長年のノウハウを強みとする。前田修吾社長は、今後、OSSのニーズは増えるとみており、「当社が役に立てる機会は多くなるはずだ」と意気込む。
松江と東京の長所を組み合わせる
──会社の紹介を。
当社は、いわゆる中小SIerとして受託開発を中心に事業を展開している。有限会社の設立が1997年で、まだ世間でOSSがビジネスに使われていなかったころから活用を進めており、それが大きな強みとなっている。また、国産のプログラミング言語「Ruby」の開発者である「まつもとゆきひろ」が在籍しており、Ruby好きのエンジニアが集まっているのも特徴だ。会社の成り立ちについては、OSSが好きな人が集まり、ビジネスをしながらOSSの普及活動をするために創業したと聞いている。
前田修吾 代表取締役社長
──顧客の状況は。
売り上げの構成比は、東京が約7割、大阪が約2割、地元の島根県が約1割となっている。東京や大阪では、インターネットを使って建設関係などのサービスを展開している企業を対象に、Rubyを使った開発のお手伝いをさせていただくことが多くなっている。島根県では、比較的規模の小さい企業のほか、自治体向けの仕事をさせていただいている。
──松江市の本社に加え、東京にも拠点を置いている理由は。
島根県だけだと、どうしても企業の仕事が少なくなってしまう。Rubyを活用したサービスを提供している企業は東京が多いため、お客様とつながる上で東京にも拠点を置くことは重要だ。社員の約半数は島根県出身で、地元に強い愛着を持っている人が多い。松江市のような自然が豊かで生活しやすい環境のほうが働きやすいと感じる社員もたくさんいるので、今後も本社は松江市に残しつつ、東京の拠点の長所をうまく組み合わせて事業を展開できればと考えている。
原点に立ち戻って成長を目指す
──ビジネスを展開する地域の景況感は。
技術力を評価していただいて声をかけていただくことは多いが、以前に比べると若干、予算縮小の話を聞いている。当社のお客様は、サービスの成長度合いによって、どんどん投資する場合と、開発の予算を抑える場合がある。今はたまたまお客様が投資を抑制している状況だ。市場環境については、悪いとまではいかず、一時的に落ち着いているとみている。
──ビジネス面での課題は。
人材の採用で苦労している。以前は、それほど積極的に募集しなくても、情報系の大学の新卒や、IT系の経験者から応募をいただくことが多かったが、最近はそういう部分が減り、プログラミングを勉強した上で他業種から転職してくるケースが増えている。創業当初は割と人数が少なく、会社側から働きかけなくても、エンジニアが自律的に知識を深めるような雰囲気があった。しかし、会社の規模がそれなりに大きくなり、新しい社員も入ると、会社全体としてOSSにどう取り組むかとの意識が薄くなっていると感じている。コロナ禍で社員のコミュニケーションも希薄になっているので、原点に立ち戻るため、今は月1回、全社で会議を開き、より働きやすく、そして成長するために何をするべきかといったことについて議論している。
──特に注力している取り組みは。
OSSに関する強みを今後も伸ばしていきたいと思っている。OSSは、世界中のエンジニアが資産を共有できるのがいいところ。直近の業務をうまくこなすことに加え、そういった価値観を社員にも意識してもらうようにしている。特にRubyは、市場の変化に柔軟に対応できるのが強み。今後、新しいサービスがどんどん増えていくと分析しているので、当社が役に立てる機会は多くなるはずだ。採用の課題を解消し、技術力を高めていければ、これからも順調に成長していけるだろう。
世界をより良くしたい
──ITに関する島根県内での動きは。
島根県や松江市が、Rubyを軸に企業を誘致する動きが増えていると実感している。島根県が学生や若者を対象に開催している「Ruby合宿」では、当社からも講師やアシスタントを派遣してお手伝いしている。このほか、当社はRubyの普及と発展のための事業を行うことを目的とする一般財団法人Rubyアソシエーション(松江市)の創設に参加し、「認定システムインテグレータGold」として活動している。Rubyアソシエーションなどでつくる実行委員会が松江市で毎年開催しているカンファレンスでは、最新事例の発表があり、数多くのサービスでRubyが使われていると認知していただくきっかけの一つになっている。
──今後に向けた抱負を。
私は就職するより前からOSSに関わっていた。かつては、ソフトウェアを購入して使い始めた後、気に入らないところがあっても自分で直すのは難しかった。一方、OSSであれば、ただ使うだけでなく、自分で改善して、ほかの人に使ってもらうこともできる。そのような素晴らしいOSSを活用して、世界をより良くするお手伝いをしていきたい。
Company Information
1997年3月、有限会社として設立。2001年7月、株式会社に。松江市の本社と、東京都千代田区の東京支社の2拠点で、オープンソースソフトウェア(OSS)を活用した受託開発などの事業を展開する。