〈企業概要〉
1999年にスペインで創業。2006年に本社を米国に移転。日本法人は19年に設立。社名はスペイン北西部で使われるガリシア語で「困難を越えていく勇気を持つ」という意でデータ活用の壁を越えるという思いを込める。
グローバルで実績のあるソリューションベンダーの国内参入が続いている。日本法人を立ち上げ、国内でビジネスを本格化する外資系ベンダーは、どのような勝ち筋を思い描いているのか。第10回は、データ活用基盤を提供する米Denodo Technologies(デノードテクノロジーズ)の日本法人に戦略を聞く。データ活用の機運の高まりを好機とみる同社は、分散したデータを1カ所に集めることなく仮想的に統合することで、データへのアクセスを容易にする支援を行っている。パートナーが手掛けるさまざまなプロジェクトで同社の基盤が活用されるようにすることで拡販を図る方針だ。
(取材・文/大畑直悠)
データを仮想的に統合
同社が提供する「Denodo Platform」は、散在するデータを複製することなく仮想的に統合し、活用できるようにする基盤。IoT機器やクラウド、社内システムなどさまざまなデータソースと、アプリケーションやBIツール、生成AIの開発環境などデータを活用するシステムとの間に仮想化レイヤーを構築し、データのビューを作成。ここから分散するデータを一元的に検索したり、統合的に分析したりして、ユーザーがデータの保管場所を意識することなく活用できる点が特徴だ。五つほどのデータソースに対応するケースでは、2~3カ月ほどで導入できるという。
ガバナンス確保のための機能も充実させている。データへのアクセス経路を同基盤に集約した上で柔軟な権限設定が行えるため、効率的な管理が可能になるとする。
中山尚美
General Manager-Japan
ビジネスは好調に推移しているといい、Regional Vice Presidentの中山尚美・General Manager-Japanは、「要因は時代のニーズに合致していることだ。あらゆるDXの中で、大量のデータを素早く活用可能にすることは大前提だ。活用したいデータが大規模になり、複雑化するほど物理的にデータを1カ所に集めることは、コスト面でも、活用するまでにかかる時間の面でも難しくなり、データの仮想的な統合が有効になる」と述べる。
また、「生成AIをはじめとしたフロントのツールやデータをためるインフラが進化を続けている中、将来的には関連会社のデータも合わせて活用したいというニーズも生まれており、保管場所は問わず、疎結合で統合できる柔軟な仕組みが求められている」とも強調する。
大手企業を中心に導入を広げており、JR西日本は、列車の運行情報や走行情報を把握し、顧客が利用するスマートフォンのアプリなどに反映させ、遅延情報を閲覧可能にしている。また、NECは、Denodo Platformで社内のデータを収集し、それを米Snowflake(スノーフレイク)のデータ基盤に蓄積した上で活用している。
中山General Manager-Japanは「スノーフレイクが提供するような製品とは一部機能がかぶり、競合に見られがちだがあくまで協業相手で、組み合わせて利用する顧客は多い。長期間、1カ所でデータを保存しておきたい場合はデータウェアハウスを利用し、分散したデータを活用したい場合は当社の製品を使ってほしい」と説明する。
金融や官公庁への導入に期待
現在、顧客数は約55社。エンタープライズ企業を中心に導入が広がっている。スモールスタートで利用されるケースが多いものの、組織内で活用が広がり全社利用される事例も生まれているという。中山General Manager-Japanは「当社が目指しているのは全社的なデータ活用基盤として利用されること。将来的に導入範囲の拡大を見据えている顧客も多い」と紹介する。
今後の販売戦略としては業界を問わず拡販を目指すが、鉄道や大手航空会社のミッションクリティカルなシステムのデータの活用に使われている実績から、金融での導入に期待を示す。また、官公庁からの需要も高まっているという。
パートナーとの連携強化にも取り組む。現在10社のパートナーと契約しており、体系的なトレーニングの提供に加え、パートナーの習熟度に応じて利点が出るようなパートナープログラムを展開している。中山General Manager-Japanは「当社の製品を単発で導入する文脈だけではなく、例えばCRMの導入プロジェクトに携わっている場合は、この中に組み込んでもらいたい。CRMに限らずあらゆる場面でデータ活用は必要になるため、パートナーの強みを生かしたプロジェクトの中で顧客に導入してほしい」と訴えた。また、全国に販路を持つパートナーとの協業により、地方への拡販にも意欲を示す。
日本法人の組織強化も図る。顧客の拡大に合わせて新規だけではなく、既存顧客のサポートを手厚くする考えで、カスタマーサクセス部隊を増員。利用の継続だけではなく、導入範囲の拡大を見込む。知名度の向上にも投資するとして、中山General Manager-Japanは「知る人ぞ知るというソリューションから脱却する」と意気込む。