山口県防府市に本社を構える三友は、食品業界に特化した自社開発パッケージの販売管理システム「懐刀」を主力製品として、全国の顧客に対してビジネスを拡大している。上流を担う部隊の育成に取り組んでおり、常務の入江千鶴・情報システム事業部モバイルシステム事業部事業本部長は「食品製造に特化した業務改善のスペシャリストとして顧客の経営課題を解決する」と意気込んでいる。
(取材・文/大畑直悠)
DXへの投資は全国的に増加
――会社の紹介を。
1947年に創業し、2025年で78年目を迎える。情報システム事業部やモバイルシステム事業部のほかに、建材事業部や物資事業部といった複数の事業を展開している。
情報システム事業部は、73年にLPガス販売事業の合理化を目的にコンピューターを導入したことを契機に発足した。自社パッケージソフトの開発・販売やスクラッチ開発に加え、他社のパッケージの取り扱いや、サーバー、ネットワークの構築を手がけている。全社の売り上げの15%ほどを占めている。
――情報システム事業部のビジネスの近況は。
主力製品の懐刀が好調だ。コロナ禍で既存の対面営業が難しくなった際に、製品ホームページを全面的に刷新した。それ以降、全国の食品製造業の顧客からの問い合わせが飛躍的に増加しており、ビジネスは安定的に成長している。直近では、原材料の高騰に加え、人材不足や働き方改革への対応、属人化している業務の標準化といった目的からDXに向けた投資は全国的に増加している印象で、人海戦術に依存しない仕掛けが求められている。
「何でもできる」ではだめ
――情報システム事業部の強みを聞く。
「何でもできます」という表現は、実は何もできないことだと考えている。懐刀を中心に、われわれは食品製造業の経営パートナーとして業務改善のスペシャリストを目指し続けている。「これ以外(の業種)はよく分かりませんが、食品製造業は任せてください」というスタンスをとっており、顧客の経営課題を解決する上で強みになっている。
入江千鶴
常務取締役
情報システム事業部モバイルシステム事業部事業本部長
――懐刀の概要は。
売り上げや在庫、仕入れ、製造などの管理ができるパッケージで、菓子や冷凍商品、乾物、水産加工といったさまざまな食品製造業に対応している。顧客の要望に応じて柔軟にカスタマイズが可能で、さまざまな外部システムと連携できることも特徴。オプションとして提供する、店舗業務を効率化するソリューションも好評だ。
00年のリリース当初は、ほとんどの顧客は当社の本社がある山口県内の企業だったが、現在では北海道から九州まで全国約250社の顧客が導入している。新規顧客の大半が山口県外の企業だ。顧客は中堅・中小企業が多い。
パートナービジネスを推進しており、全国に商流を持つ事務機系の販売店などと連携している。パートナー経由の販売では、かつてはオンプレミス型のニーズが高い傾向にあったが、コロナ禍以降はクラウド型が選ばれることがほとんどだ。
――パートナービジネスの今後の方向性は。
大幅にパートナーの数を増やすことは考えていない。ただ、「製品を直接見せてもらいながら検討したい」という顧客は多く、当社がアプローチしきれないエリアは地場の販売店を介した取引を進めたい。その意味でパートナーが増加することはあるだろう。
――受託開発ビジネスの状況は。
懐刀を提案のツールとして持っていても、カスタマイズのボリュームがあまりにも大きすぎるとスクラッチ開発に切り替えることはある。ただ、受注状況としてはパッケージと比べ比率は年々下がってきている。
山口県は大都市の福岡と広島に挟まれ、当社を含めて県外でのビジネスを志向する企業が多い。こうした中、スクラッチ開発で何度も足を運びながら要件定義するのは限界がある。その点、パッケージであれば、顧客が求める要件とパッケージにどれくらい差分があるのか早い段階でつかむことができる。これは当社が懐刀を開発した理由でもある。
業種ごとのテンプレートを用意
――今後の製品開発の方向性は。
自社開発パッケージのラインアップを増やすというよりは、懐刀の機能整理を進めたい。食品製造業の中でも菓子製造向けや冷凍食品向けといった業種ごとにテンプレートを用意すれば、顧客がより検討しやすくなるだろう。
――情報システム事業部として、これから取り組みたいことは。
顧客のニーズを先取りした機能強化を進める部隊や、製品導入後のサポートを担う部隊などを拡充したいと考えている。一番強化したいのは、上流で顧客の課題解決に伴走する業務改善のスペシャリストだ。ITの知見を基に顧客と会話できる経営コンサルタントの存在は、競合との差別化にもつながる。こうした部隊を育成する上では、まずは愚直に1社ごとの顧客満足度を高めながらノウハウを今以上に蓄積したい。
Company Information
1947年に建設資材の販売で創業。工事やLPガスの販売なども手がけ、情報システム事業では自社開発パッケージを主力製品として食品製造業界向けに展開する。2023年度の売上高は139億円。従業員数は274人(24年5月現在)。