福島県で、「ICTの総合サービス企業」という理念を掲げ事業を展開しているエフコム。システムの企画から構築、保守運用までトータルで提供する体制で業績を伸ばしてきた。自社のデータセンター(DC)を活用したクラウドサービスのほか、提供するBPOサービスが好調で、地元で雇用を増やしている。東日本大震災で大きな被害を受けた福島を盛り上げようと、ITによる地域活性化という視点からの取り組みに注力している。
(取材・文/堀 茜)
BPOサービスで雇用を創出
――事業内容の紹介を。
事業の柱は、ソフトウェア開発、アウトソーシングサービス、IT関連機器の販売の三つで、それぞれがバランス良く成長している。事業領域としては、公共、教育、民間、医療・介護など幅広い分野にサービスを提供している。顧客が求めるシステムの企画から構築、保守運用まで、トータルでサポートする体制をライフサイクルマネジメントサービスと位置付け、ソフト開発も含めて一気通貫で対応している。売り上げの7~8割を県内で確保。支社がある東京と仙台にはグループ会社があり、県外のビジネスはグループ企業とシナジーを生みながら展開している。
――成長している領域は。
アウトソーシングビジネスが伸びている。当社は県内に2カ所のDCを持っており、DCを核にクラウドサービスやBPOを提供している。2011年に東日本大震災が発生し、福島県は大きな被害を受けた。復興の中でDCの需要が高まったという側面もあったが、地元福島で長年育てていただいた企業として、ITで少しでも復興を後押ししたいとの考えから、もともとあった会津若松市に加えて14年に福島市にもDCを開設。BPOやコールセンターといったサービスを拡充し、雇用の創出につなげている。当社の強みとして、取引のある顧客がリピートしてくださる比率が非常に高い点がある。社員がお客様に寄り添って対応している成果だ。
ニッチな需要に応えるソフトウェア
――自社開発のソフトで特徴的なものは。
地方議会の答弁支援システム「答べんりんく」がある。質問の受け取りから答弁の作成まで、議会準備に関わる業務をオンライン化し、自治体職員の事務負担の軽減とペーパーレス化を同時に実現している。大変評価していただいており、全国に展開している。もう一つは、鳥獣害の対策ソリューションとして、クマなど人に危害を与える可能性のある動物の出没箇所をマッピングする「獣(じゅう)マップ」だ。昨年リリースし、地域住民と地方自治体の情報共有や効率的な連携を可能にしている。
斎藤正弘
代表取締役社長
――ソフトウェアは、どんな方針で開発しているのか。
地域特有の課題というのは多く存在しており、それを解決するようなソリューションを考えている。お客様と対応する中でヒントをいただき、困りごとを解決するようなものを生み出している。ニッチな需要だが、解決のために当社の技術が役立てばと思っている。
―― 新しい取り組みは何かあるか。
23年には、福島市、地元の製造業の会社と3者で包括連携協定を締結し、先端ICTによる地域活性化へ向けた取り組みを開始した。福島県はフルーツの栽培が盛んだが、果樹園で働く人の高齢化や、小規模農園が多いといった問題を抱えている。ロボットやドローンなどを活用して、課題を解決できないかといった実証を行っている。
積極的な地域貢献活動
――東日本大震災を経て、県内企業のIT投資の現状は。
直後は、県内企業の中に本社を県外に移そうかといった検討をするようなところもあったようだが、何とかとどまって一生懸命に事業を行っている企業が多い。DXについては、まだまだこれからという面があると感じている。セミナーを実施したり、技術者を派遣したりする中で、お客様の課題を一緒に見つけるようなケースもある。解決のためにDXをどう進めていくかといった相談を受けるところからサポートしている。コロナ禍を経て、県内のお客様もデジタル化に積極的で、新たなビジネスを構築される企業も出てきている。当社はそういった動きをITでいかにお手伝いできるかを考えている。
――社会貢献活動にも積極的だ。
地域を元気づける目的で、野球のクラブチームを持っている。一部社員が仕事をしながら野球をし、今年は全国クラブ野球選手権で準優勝した。また、昨年福島ベースボールアカデミーという会社を立ち上げ、福島市と郡山市で園児と小学生に野球を体験してもらう場を設けている。子どもたちの健全育成に役立てればと取り組んでいる。
――今後の経営方針は。
福島県もほかの地方同様、人口減少が進む見通しで、ICTが果たす役割はますます大きくなる。人手不足が深刻になる中では、データやAIの活用も視野に入れていく必要がある。当社は長年福島の地でIT事業を展開し、地元のお客様に支えていただいてきた。地域が求めるITサービスを継続的に届けていくことが存在意義になる。今後も地域の課題を解決するサービスやソリューションを生み出し、福島発の製品を全国にも少しずつ広げていきたい。
Company Information
1980年、福島ファコムセンタとして設立。98年現在の社名に。本社は福島県郡山市。福島県内各地と東京、仙台に拠点を持つ。2023年度の売上高は87億円6600万円。従業員数は354人(24年6月1日現在)。