横浜市のワイイーシーソリューションズは、自治体向けビジネスを中核に50年以上の歴史を紡いできた。ここ数年は民間市場の開拓にも注力するほか、ノーコード・ローコード開発をはじめとした新規事業の研究開発にも積極的で、新たなステージへ進もうとチャレンジを続ける。岩崎壽信社長はNECのグループ企業でありつつも「『自主自立』の企業を目指す」と意気込む。
(取材・文/藤岡 堯)
ハード販売で民需を開拓
――会社の沿革と事業概要を聞く。
NECの汎用機のバックアップセンターとして創設され、2024年9月に55年を迎えた。設立当初は横浜市や横須賀市、厚木市といった自治体の電算業務、大量印字業務を担い、その後、スクラッチ開発や自社パッケージ製品の開発を手掛け、20年ほど前からはデータセンター事業も展開している。設立当初の事業の流れでBPOサービスも提供し、最近はPCやサーバーなどの機器も販売している。売上高の約8割が自治体向けで、民需はおよそ2割となっている。神奈川県下が中心だが、約50種類ほどあるパッケージソフトについては、一部は全国で利用されているものもある。
事業に関しては、少し前まではハードウェアの販売、システム開発系、データセンターといったサービスがそれぞれ売上高の3分の1ずつを占めるバランスだったが、近年はハードが一番大きくなっている。自治体における基幹業務システムの標準化に伴い、将来的には自治体需要が落ちると見込んで、最近は民間の掘り起こしを進めている。当社は民間の下地があまりないため、顧客接点をつくるためのドアノックツールとして、ハードの販売から入り込み、本丸のシステム開発につなげようという思いがあるからだ。
――ここ数年の業績をどうみているか。
新型コロナ禍をきっかけに世の中が変わり、テレワークやGIGAスクール構想などの影響でIT業界全体が好調となった。その例に漏れず、当社もここ2、3年の売上高や利益が過去最高となるなど、だいぶ順調になっている。
ただ、先述の通り、この先は自治体向けのビジネスがある程度下火になるだろうと考えており、それを補えるのは民間への進出だ。25年度で現在の中期経営計画が終わる。次の計画を考える中で、今後の民需戦略を練らなければならない。
民間においては、スクラッチ開発は少なくなっているとはいえ、標準化という考え方は自治体よりも薄い面がある。一方でパッケージによって費用を抑えようという考えもあり、その辺りをミックスした手法として、ローコード・ノーコード開発が挙げられるだろう。当社では開発ツールの「Unifinity」を取り扱っている。iOS、Android、WindowsなどOSに依存しないシステムが構築できる点でお客様にもメリットがあり、レガシーシステムを移行しようという動きもある。これをさらに活用し、民間の需要を開拓したい。
研究開発・教育に注力
――民需開拓以外に力を入れている取り組みは。
3年ほど前に研究開発と教育の部門であるR&DIを立ち上げた。スクラッチ開発の減少で想定される技術力の低下を補う狙いと、新しいことを研究し、開発に反映させるための組織だ。近年はAIの研究を進めており、自前のサービスに埋め込み、パッケージを強化できないか取り組んでいる。
岩崎壽信
代表取締役社長
研究開発の部分では、保育施設向けに、マイクロ波を用いるドップラーセンサーで午睡中の子どもの状態を計測し、アプリケーションを通じて監視できるシステム「おひるねセンサー りりーふなっぷ」を第1弾として提供している。同じ保育施設向けとして、ビーコンを活用してバスの置き去り・乗せ忘れを防止するシステムも展開している。
自治体向けの仕事が中心だと、技術のキャッチアップやビジネスのスピードは遅くなる面があり、会社としても進化が遅れていた。しかし、それでは生き残れない。R&DIによってその辺りのスピードは高まっているとは思うが、まだまだだろう。
――自治体向けビジネスの展望は。
標準化関連では、文教向けの学齢簿や就学援助に関するシステムの開発を進めており、25年度までにある程度の導入数を見込んでいる。25年度から先にさらに数字を伸ばすための施策を考えているところだ。標準化の動き以外では、長い歴史がある施設予約システムや高いシェアの斎場予約システムの伸長を図りたい。
行政に市民や企業から寄せられる問い合わせ、要望、苦情といった情報をデータベースで一元管理し、受付から回答に至るまでを迅速に行える「市民の声システム」も、AIなどを組み合わせ、施策立案のためのデータ分析機能を加えるなどバージョンアップを検討している。
社員が第一
――今後の抱負を。
社員を第一に、大切にしたいとずっと考えている。現在はいろいろなかたちで社員への還元を進めており、引き続き取り組んでいく。また、会社の目標として「自主自立」を目指したい。当社はNECのグループではあるが、親会社に頼ってばかりではいけない。自主自立した企業へと成長しなければ、ワンランク上の会社にはなれないだろう。
Company Information
1969年9月創立。神奈川県内を中心に全国の地方公共団体や企業に対し、システムの構築・運用サービス、業務用アプリケーションの開発、クラウドサービスやアウトソーシングなどを提供。2023年3月期の売上高は81億900万円。NECのグループ会社。