視点

「TikTok Shop」がもたらすEコマース革命

2025/07/30 09:00

週刊BCN 2025年07月28日vol.2069掲載

 動画プラットフォームTikTokが展開するソーシャルコマースサービス「TikTok Shop」が、日本市場に上陸した。既に東南アジア、英国、米国などで成功を収めているこのサービスは、従来のEコマースとは一線を画す新しい購買体験を提供している。

 海外での実績は圧倒的だ。2024年のTikTok Shopのグローバル流通総額は326億ドル(約5兆1000億円)に達し、インドネシアでは月間アクティブユーザーの7割以上がTikTok Shop経由で商品を購入しているという。この成功の要因は、エンターテインメントと購買行動の融合にある。従来のEコマースが「商品を探して購入する」能動的行動を前提としていたのに対し、TikTok Shopは「動画を楽しみながら自然と商品に出会う」受動的かつ感情的な購買体験を実現している。

 日本市場は独特の特性を持つ。品質への厳格な要求、信頼性重視の購買行動が特徴だが、TikTokの日本での月間アクティブユーザーは1700万人を超え、その多くが購買力のある20~40代の女性層である。美容・ファッション・食品分野でのトレンド感度の高さは、TikTok Shopにとって大きな機会となる。従来のアフィリエイトとの最大の違いは購買プロセスの統合度にある。

 従来は外部サイトへの遷移が必要だったが、TikTok Shopでは動画視聴から購入まで全てがプラットフォーム内で完結する。TikTokerは売り上げの5~20%を販売手数料として受け取り、ライブコマースではより高い収益機会を得られる。これにより、動画コンテンツを通じて潜在的購買欲求を喚起する「発見型コマース」を実現している。

 ユーザーが能動的に商品を探すのではなく、動画コンテンツを通じて新たな商品やブランドを発見する仕組みを提供することで、検索主体のECとは異なる、感性に訴える購買体験を可能にしている。また、小売業界の在り方を大きく変える可能性も秘めている。エンターテインメントと商取引の融合がもたらす新しい購買体験は、ソーシャルコマース時代の到来を告げる一歩となることは間違いない。

 この変革の波に乗り遅れないためには、企業も消費者も新しい購買体験への適応が求められる。動画コンテンツを活用したマーケティング戦略の構築と、デジタルネイティブ世代の消費行動への理解が成功のかぎとなるだろう。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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