IT業界では、さまざまな団体が活動を通じて市場の発展のために尽力している。本連載では、各IT業界団体にスポットを当てて活動内容や特色を紹介する。第1回は、2025年5月に設立40周年を迎えた東京都情報産業協会(IIT)の高梨輝彦会長に話を聞いた。IITはこれまで、人同士の“絆”を重要視し、会員企業間の交流の場の提供のほか、東京都をはじめとした外部との連携にも力を入れてきた。2030年に向けた新たなビジョンの下、業界団体として一層の発展を目指す。(大向琴音)
設立から40周年
――協会の概要をお願いします。
当協会は元々、1985年に日本ソフトウエア産業協会として設立され、2016年に東京都情報産業協会へ名称を変更、25年5月には設立から40周年を迎えました。会員は中小のIT関連企業が中心で、25年8月現在で200社以上が参画しています。東京都を中心とした情報産業の発展支援や人材育成、経営基盤の強化、地域社会との連携を通じた産業の活性化といった目的があります。
――主催しているイベントや活動内容について教えてください。
月に1回、講演会および交流会の「IITふぉーらむ」を開催しているのに加え、東京都や大学・教育機関と連携した人材支援事業、サイバーセキュリティーや法制度などに関する会員向けの勉強会を開催しています。また7月には、40周年記念式典を行いました。
協会内での交流イベントも積極的に実施しています。会員企業の多くが中小企業のため、通常業務の中ではどうしても触れることのできる情報が限定されてしまいます。レジャーを含めた参加型のイベントを通じて、他社の社員と交流することで刺激を受けるのが重要なことだと考えています。
――協会の活動を行う上で大切にしていることはありますか。
人と人の“絆”です。協会としては、コミュニケーションの場の提供を行っています。上下関係なく、集まりの中での人とのつながりを大事にしていますので、逆に言えば、必ずしもビジネスマッチングは重視していません。「自由に発言をしてください」という立場です。協会として方針を固めてしまうのではなく、交流の場を設けた上で、個人同士によって自然発生的につながりができていってほしいと思っています。
地方との連携強化を重視
――外部と連携して取り組んでいることはありますか。
東京都と一緒に業界未経験者に対して教育を行い、その後、教育を受けた人を対象に合同面接会を実施しているほか、警視庁や中小企業支援機関、サイバーセキュリティー対策機関などが設立した「東京中小企業サイバーセキュリティ支援ネットワーク(Tcyss)」にIITもメンバーとして参画しており、中小企業のサイバーセキュリティー対策の強化の支援にも取り組んでいます。こうした活動を通じて、この10年で東京都とのパイプができてきたと感じています。
加えて、地方の団体との連携も図っています。情報が首都圏に集中してしまっていますから、首都圏以外の地域と情報をうまく連携できる関係を築いていくということです。例えば、神奈川県や千葉県、埼玉県などの首都圏に加え、山梨県や福島県、鹿児島県、宮城県といった地域の経営者同士が交流できる場を提供しています。今後は、経営者同士だけでなく、会員企業の社員同士のコミュニケーションの場を設けることも進めていきたいです。
高梨輝彦会長
――昨今、AIをはじめとした新たなテクノロジーが市場に台頭してきています。
国内のIT業界は、生成AIなど新技術への適応力が問われる時代に入りました。とはいえ、どれだけテクノロジーが進歩しても、重要なのは何を成し遂げたいかという目的を明確にすることです。例えば昨今、DXという言葉が盛んに使われていますが、ツールの導入といった面が議論されがちですので、そういった考え方を(目的ありきに)変えていく必要があります。
IITの会員企業には、ユーザー企業をはじめ外部を巻き込んだ動きをすることが重要だと話しています。IT環境を実装するのは会員企業のみなさまですので、社外の仕組みを知り、自分たちが社会をより良く変えていくといった意識を持った企業が増えると、大きくIT業界が変わっていくのではないでしょうか。
“金の卵”の連携に期待
――今後の展望をお聞かせください。
中小企業は、何をするにも1社では限度があります。現在IITには会員企業が200社ほどいますから、個社ではなく、団体として取り組んでいくのがいいでしょう。会員企業全体で約3万人の社員がおり、その中には優れた能力を持つ“金の卵”がいますから、IITを通じてそうした社員が連携することで、独自性があるものが生まれるなど、将来的に“花火”が打ち上がるのを期待しています。
IITは「2030年」を見据え、「WITH US 2030 - 新時代における共創社会の実現に貢献」という新たなビジョンの下、“個”ではなく“共”を軸に、社会と共に歩む業界団体として進化していきたいと考えています。
――具体的な注力ポイントを教えてください。
30年に向けて、▽会員企業と共に働く人のQOL向上を目指す取り組み▽東京都のDX構想に沿ったプロジェクト支援▽教育機関と連携した次世代人材の育成▽共創・協働による地域活性化と企業間連携―の四つを重点分野として取り組みます。
IITが発展していくために組織の強化も重要ですので、理事に若手や女性を積極的に投入するなどして、次に向けた組織づくりを進めていきます。
【東京都情報産業協会】
1985年5月に日本ソフトウエア産業協会として設立。2016年4月に東京都情報産業協会へ名称を変更。東京都を中心とした情報産業の発展支援や人材育成、経営基盤強化、地域社会との連携を通じた産業活性化を目指し、25年8月現在では200社を超える企業が参画する。