視点

AI擬人化に見る日本のアニミズム

2025/09/03 09:00

週刊BCN 2025年09月01日vol.2073掲載

 私の周りでは「ChatGPT」に、「チャッピー」「チャットくん」などと愛称をつけ、まるで人間のように接する人が増えてきた。このような擬人化傾向は一見、親しみやすさを演出する軽妙なカルチャーのように思えるが、実は日本社会に深く根ざした精神的基盤が関係しているのかもしれない。

 それは、自然やモノに霊性を見出す日本人のアニミズム的世界観だ。西洋の近代思想では、人間は自然やモノを制御・管理する主体であり、それ以外の存在はしばしば客体化される。AIも例外ではなく、効率化や合理化を担う「ツール」として扱われる場面が多い。

 対して日本文化は、人間と自然、さらには人工物との間に明確なヒエラルキーを設けない傾向が強く、相互に感応し合う“関係性の文化”が基盤となっている。

 この文脈では、AIも単なる技術的道具ではなく、感情を持ち、共に学び、成長する“相棒”のような存在として捉えられる。名前をつけるという行為そのものが、AIに魂を吹き込む“文化的インターフェース”であり、人とAIとの関係性を構築する儀式のような役割を果たしている。

 実際、宮崎大学教育学部附属中学校では、生成AIと会話ができるキャラクター「Techるくん」や「仮説設定お助けくん」などを授業に取り入れ、生徒の思考力や探究心を育む試みが進んでいる。生徒はこれらのAIキャラクターに親しみを感じながら、自らの考えを深めたり、新しい視点を得たりしており、AIをまるで“なんでも知っている友だち”のように捉えているという。ここには、単なる情報処理ツールではなく、感情的・人格的に関わる存在としてAIを迎え入れる、日本的な心性が表れているようにも感じる。

 テクノロジーと人間の関係が再構築されつつある現在、日本独自の擬人化文化は、AIとの共生を前提とした新たな関係モデルを世界に提示する可能性を秘めている。AIを従えるべき存在として扱うのではなく、育て、対話し、信頼関係を築く対象とする。そのような態度は、日本ならではのアニミズムの現代的な再解釈として、とても興味深いと感じている。一方で、AI側にコントロールされるという危険性も秘めているので、これからもAIとの距離感に気を付けることも大切だ。

 
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎
勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
 1964年生まれ。奄美大島出身。中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了(経済学修士)。ヤンマーにおいて情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業業務全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。2025年より鹿児島大学大学院理工学研究科特任教授。総務省地域情報化アドバイザー、鹿児島県DX推進アドバイザー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。
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