視点

「人月商売」の終焉と価値創造集団への変革

2025/10/22 09:00

週刊BCN 2025年10月20日vol.2079掲載

 SIerの根幹をなす「人月商売」は、構造的な欠陥を抱えていた。投入時間が多いほど売り上げが増える仕組みは、技術革新への意欲を削ぎ「技術力を空洞化」させた。顧客が望む「早く、安く」という価値観とSIerの利益が相反するため「顧客との価値観のかい離」を生み、多くの企業が開発の「内製化」へ向かう原因となった。

 この内製化の流れを生成AIが決定づけた。AIがコーディングなどを代替することで、企業が自社で開発チームを持つハードルは劇的に下がり、旧来のモデルへの固執はもはや緩やかな死を意味するようになった。では、SIerは不要になるのか。答えは「否」だが、それには大胆な自己変革が不可欠だ。目指すべきは、次の三つの変革である。

1.役割の再定義:「システム開発」から「ビジネス開発パートナー」へ

 AIが「How(どう、つくるか)」を担う以上、人間は「Why(なぜ、つくるか)」と「What(何を、つくるべきか)」の定義が役割となる。単なる受注者ではなく、顧客の成功にコミットする「ビジネス共創パートナー」を目指すべきだ。

2.商品の再定義:「労働力」から「技術力(知的資産)」へ

 売るべきは時間ではなく、課題解決に直結するアーキテクチャーや独自ソリューションといった「知的資産」としての技術力だ。これらは提供価値によって評価される。

3.人材の再定義:「経験と勘」から「科学と工学」へ

 AIはベテランの経験を超えるため、「経験年数」は価値にならない。今後はコンピューターサイエンスなどの「基礎知識」、アジャイルなどの「モダンITスキル」、そして「AI活用スキル」の3層構造が必須となる。経営者はこれを最重要課題と捉え、学び直しへの投資を主導せねばならない。

 この変革は「商売替え」に等しい覚悟を要する。花札メーカーから世界的ゲーム企業へ変貌した任天堂のように、本質は変えずに手段を時代に合わせて進化させるのだ。SIerの本質は「テクノロジーによる課題解決」。人月商売という呪縛を断ち切り、価値創造集団へと生まれ変わる覚悟が今、問われている。

 余談になるが、先日上梓した拙著『システムインテグレーション革命 AIの大波に立ち向かうための「脱人月」シナリオ』(技術評論社刊)ではこの問題に取り組んでいる。課題解決の手助けになれば幸いだ。

 
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
斎藤 昌義(さいとう まさのり)
 1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する
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