視点
幻の黄金時代
2025/11/05 09:00
週刊BCN 2025年11月03日vol.2081掲載
株価や地価の値上がり、リゾート地の開発、賃金上昇。これは1980年代後期の日本経済黄金時代の景色である。ただ、黄金時代の再来になったかに見えるが、実態はそうではない。問題はこの黄金のうまみを誰が得ているかである。それは主に外国人投資家や一部の富裕層で、一般庶民には縁遠いものである。おまけに黄金時代の必然で、インフレが付随している。賃上げ率は高水準といわれているが、連合の発表では2024年は5.1%、25年は5.25%で、多くの労働者はインフレに追い付けない状況にある。
80年代後期の黄金時代は、全国民に少しは恩恵が配分された。しかし、今回は庶民にはインフレという付随物だけが押し寄せる。横浜の郊外にあたる私の家の近所でも1戸建て新築住宅が5000万円、都心ではマンション価格が軽く1億円を超えている。普通のサラリーマンでは、よほどの人でない限り住宅は買えないものとなった。
今回の参議院選挙で既成政党が伸び悩み、参政党などの新興政党が伸びたのは単なるSNS戦略やポピュリズム政策の差だけではなく、為政者がわれわれ庶民の生活に細かな目を向けていないのではないかとの不満の現れでもある。
例えば、これだけの株高なのだから株式譲渡益税を20%から25%には上げても良いのではないのか。外国人の不動産投資については課税の強化や5年間の転売禁止などの規制措置を考えても良いのではないのか。賃上げといっても大手企業、正規職員が中心である。人手不足であるからパート、アルバイトの待遇改善の臨時措置法ぐらいは考えても良いのではないのか。
いくらでも方法はあると思えるのに、議論すらされていないように映る。ただ成り行きを静観しているだけである。しかし、株価や地価の値上がり、賃金の上昇を見ると、確実に日本経済が良い方向に向かっていることだけは間違いない。この上り調子の活力を庶民にいかに配分するのかが為政者の役割である。
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増田 辰弘(ますだ たつひろ)