視点

Android XRが描くパラダイムシフト

2025/11/19 09:00

週刊BCN 2025年11月17日vol.2082掲載

 韓国Samsung(サムスン)が2025年10月に「Galaxy XR」を発表したことで、空間コンピューティング業界は転換点を迎えた。Android XRプラットフォームを搭載した初のデバイスは、「Apple Vision Pro」の半額。戦略的価格設定で、市場の民主化を一気に加速させている。注目すべきは、これが単なる新製品の投入ではなく、エコシステム構築の布石である点だ。

 米Google(グーグル)と米Qualcomm(クアルコム)、サムスンの3社連合は、かつてスマホで成功したAndroidモデルをXR領域で再現しようとしている。Unity、Unreal Engineなどの開発プラットフォームもローンチ時点で対応を表明し、開発者の参入障壁は劇的に低下した。

 年明けには、グーグルと中国XREAL(エックスリアル)が共同開発するサングラス型デバイス「Project Aura」が予定されている。Android XRベースでありながら日常的に装着可能なフォームは、「街を歩けば情報が浮かぶ」という空間コンピューティングの理想形に最も近い。

 米Gartner(ガートナー)の予測によれば、空間コンピューティング市場は23年の1100億ドルから33年には1兆7000億ドルと15倍以上に成長する。26年はヘッドセット、ARグラス、スマートグラスという三つの形態が出そろい、用途別のすみ分けが明確化する年になる。没入型エンターテインメントにはヘッドセット、3Dコンテンツを活用した作業にはARグラス、日常的な情報アクセスにはスマートグラスと、デバイスの多様化が進むはずだ。

 特にAI統合が標準化されたAndroid XRでは、「Gemini」による自然言語操作や画像認識が始めから組み込まれており、従来のXRデバイスとは一線を画す体験を提供できる。すでにグーグルの「Genie 3」では生成AIが自動で空間作成を実現、指示を与えればリアルタイムで空間に変化を与えることができる。これがヘッドセットで利用可能になると、活用範囲は一気に広がる。

 空間コンピューティングは、26年には「実験的技術」から「実用的プラットフォーム」へと移行する。そのかぎを握るのは、オープンエコシステムの拡大だ。スマホが10年かけて達成した普及を空間コンピューティングはわずか数年で実現しようとしている。今まさに、その幕が上がろうとしているのだ。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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