山形県内のIT推進における中心的な役割を担うのが、山形県情報産業協会だ。現在、県内地域ごとのイベントの開催や人材の育成・派遣などを通じて、地元企業への支援を強化している。小沼博・事務局長に取り組みや今後の展望について取材した。(大向琴音)
ネットでは得られない情報や体験を提供
――山形県情報産業協会の概要をお願いします。
当協会は、県内における情報関連技術の利用促進・水準向上や人材の育成、普及啓発を通じて地域社会の高度情報化の促進を図ることを目的に、2004年に設立されました。正会員が32社、賛助会員9社の合計41社(2025年11月10日現在)で構成されています。
――活動内容について教えてください。
毎年、山形県と連携してITイベント「やまがたITソリューションEXPO」を開催しています。会員企業が提供しているソフトウェアの展示や、講演の実施などを通じて、県内の企業に対して情報提供を行っています。
25年は10月に開催しましたが、従来と比べて来場者数が増加しました。ブースの数を増やしたり、地元企業だけでなく外資系ベンダーなどを呼んだり、来場者を増やすために内容に変化を加えました。東北地方の展示会の規模としては宮城県が一番大きいと思いますが、25年のやまがたITソリューションEXPOは、宮城県の次くらいには規模が大きいのではないかと自負しています。
――イベントの盛況ぶりの要因には、エンドユーザーのITに対する意識の変化も関わっているのでしょうか。
そうですね。AIといった最新技術やDXへの関心は皆さん持っていると思いますが、インターネット上でさまざまな情報を手に入れられるため、実際に展示会などに足を運ばなくてもいいと感じる人は少なくないでしょう。とはいえ、体験しないと分からないこともありますから、なるべく実際に(ソリューションに)触れられるような展示をしてもらうようにしました。バーチャルやオンラインといった最近の潮流とは逆の動きかもしれませんが、来ていただくからには、インターネットだけでは仕入れられないような情報や体験を提供することを大事にしていきます。
小沼博 事務局長
――やまがたITソリューションEXPO以外にも、「DX推進セミナー」などのイベントも主催しています。その狙いについて教えてください。
やまがたITソリューションEXPOは山形市で開催していますが、例えば海沿いの庄内地域から足を運ぶとなると遠いという課題がありました。そこで、地域ごとにイベントを開催するため、24年から始めた取り組みがDX推進セミナーです。県内の3地域を巡るセミナーで、山形市のほか、庄内地域や置賜地域で行っています。始まってから2年目の取り組みのため長期的な効果はまだ見えていませんが、今後も毎年続けることで、県内企業のITに対する姿勢がいい方向に変化するのを期待します。
人材育成と派遣の両面から支援
――人材育成関連ではどのような支援に取り組まれていますか。
現在、「山形県高度デジタル技術者育成事業」という取り組みを実施しており、山形県の協力の下でAIエンジニアを育成するための資格取得講座を開いています。その結果、東北地方における資格取得者は宮城県に次いで2番目に多いです。
加えて、育成だけでなく、県内企業に対して「E資格」というAI関連の資格を持つ専門家を無料で派遣する事業も展開しています。AIに関する初歩的な相談ごとから、導入に向けた専門的な助言まで幅広く対応しています。
――山形県のIT業界の今後の発展性についてどのように考えていますか。
これまで地方のIT企業においては、パッケージ製品をつくって全国に展開するという成長の方法がありましたが、現状、パッケージは既に足りている状態だと思っています。加えて、DXは単にパッケージを導入するだけでは実現しません。そういう意味で、今後は「このツールはどこでどのように使うべきなのか」という疑問を相談ができる相手が必要です。地方の中小企業がITの専門家を雇ったり、育成したりするのは難しいですから、地元のITベンダーが相談相手として地元企業を支援することで、IT業界のみならず、他の業界の発展にもつながるのではないでしょうか。
――近年の活動の活発さには、山形県のIT産業の発展に向けた意気込みが表れているように感じます。
先ほど話したように、DXは何かソリューションを買えば実現できるわけではありません。だからこそ、その意味を正しく理解してもらうために、当協会としてコツコツと活動を続ける必要があります。それと同時に、実施している取り組みについて対外的にアピールし、(地元企業に)「何でも話していいんだ」と感じてもらえる関係を築くのが非常に重要だと思います。
<紹介>
【山形県情報産業協会】
2004年2月に設立。県内における情報関連技術の利用促進・水準向上や人材の育成、普及啓発を行い、地域社会の高度情報化の促進を図ることを設立目的とする。合計41社(2025年11月10日現在)。