沖縄県においてITは観光に次ぐ産業として重要な位置を占める。沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)では、県内のIT企業やユーザー企業への支援、県外や海外からの企業誘致、イベント開催といった幅広い活動を通じて、沖縄県のDXを推進している。取り組みについて、山田一誠・専務理事に話を聞いた。(岩田晃久)
県外、海外の企業を誘致
――ISCOについて教えてください。
沖縄の一番の産業は観光ですが、その次に規模が大きいのがIT産業です。その中でISCOは、2018年5月に地場のIT業界を支える組織として設立され、IT事業者への支援や、一般企業のデジタル化やDXを促進する取り組みをしています。
具体的な活動内容としては、沖縄県から多くの補助事業を委託されており、ITに関する各種補助金に関わる業務、IT投資動向をはじめとする調査、スタートアップ支援や企業誘致、イベントの開催などになります。
――会員企業への支援は、どのように取り組んでいますか。
会員企業は25年3月末時点で273団体に上り、会員同士の関係構築を目的に、定期的に交流イベントを実施しています。多くの方に参加していただき、ビジネスの話を中心に盛り上がるなど好評を得ています。
メールマガジンで県内のIT関連の動向や補助金の詳細、会員企業の新製品やサービスなどの情報を積極的に配信しています。近年は、ISCOの取り組みや沖縄のITを応援したいという気持ちから会員になる組織が増えています。
――企業誘致にも取り組んでいるそうですね。
東京都と大阪で年に一度、誘致イベントを開催しているほか、県外のスタートアップのイベントに出展するなどしています。加えて、海外企業の誘致にも取り組んでいます。実際に、沖縄でビジネスを始める際にも、さまざまな支援を実施します。企業により目的に違いがあるので、スケジュールなどを含めてきちんとヒアリングをして、オフィスを紹介するなどしています。
海外企業の事例としては、韓国のスタートアップ企業が日本最初の拠点を沖縄に構え、その後、国内の大手企業と提携してサービスを全国展開しました。こういったケースが生まれています。
山田一誠・専務理事
多くの企業と人が集まる「ResorTech EXPO in Okinawa」
――どのようなイベントを開催されているのですか。
20年からIT・DXの展示会商談会「ResorTech EXPO in Okinawa」を開催しています。ResorTechは、Resort(リゾート)とTechnology(テクノロジー)を掛け合わせた言葉で、リゾート地である沖縄の観光産業をテクノロジーで支えるという発想からスタートしました。今では、リゾート地沖縄のあらゆる産業を支え、その生産性や付加価値を向上させるテクノロジーという意味で使用しています。
25年は11月13~14日に開催します。参加企業数は約280社、来場者数は2万人ほどを見込んでいます。参加企業は、沖縄のIT企業をはじめ国内外のIT企業などさまざまです。
――年々、規模が大きくなっているようですが、イベントの発展に向けては、どう取り組んでいますか。
経済産業省やデジタル庁、県内だけでなく県外の団体、韓国の大韓貿易投資振興公社といった海外の重要機関などと連携し、講演をしてもらったり、広報をお願いしたりなど協力関係を築けているのが大きいと感じています。
小さなありがとうを積み重ねる
――組織づくりではどういった部分に力を入れていますか。
沖縄県からの受託事業がメインだったこともあり、県の組織に合わせてISCOも組織づくりをしてきましたが、25年度から各事業に横串を刺して新しいビジネスをつくる役割の「シニアスペシャリスト」を設けるなど、新しい動きをしています。ISCOは支援企業を増やすことを目標に掲げているため、職員には「小さなありがとうを積み重ねていこう」と話をしています。
――県内企業のITへの関心は高まっているのでしょうか。
全国と同じ傾向だと思いますが、取り組みが進んでいる企業と進んでいない企業の差が出ています。沖縄の場合、中小零細企業が多く、そういった企業の中にはFAXで受注していたりといったケースがあります。最近は、そのような状況から脱却を目指す企業が現れ、ISCOにシステムや補助金に関する質問や相談をするケースが増加傾向にあり、「DXに取り組むならISCOに」という流れが浸透しつつあります。
――今後の展望をお願いします。
IT人材不足に対処するため、私たちと強いネットワークを持つベトナムや韓国など海外と連携して課題を解決していければと考えています。また、一般企業に目を向けると、ITの力で解決できることはまだ多くあるので、省人化できる部分はITを活用し、人間でなければできないところに取り組めるようにしたいですね。スタートアップについては、県内で働く若い人に刺激を与え、さらに頑張ってもらえる仕組みが必要だと思うので、県外・海外のスタートアップとの連携やネットワークづくりなどを通じてサポートしていきます。
【沖縄ITイノベーション戦略センター】
2018年5月に設立。沖縄県の各産業のDX推進、スタートアップ支援、企業誘致、イベント開催などを通じてIT産業の発展に取り組む。会員企業は273団体(25年3月末時点)。