生成AIの進歩によって、私たちはかつてないほど簡単に知識を得られるようになった。疑問があればスマートフォンで質問すればよい。レポートの下書きもつくれるし、難しい概念の説明もしてくれる。先日、鹿児島大学で開催されたシンポジウムに参加したある高校生から「生成AIが知識を教えてくれる時代に、何を学べばよいのか」との質問があった。
その時、私はあるドラマの裁判官の言葉を思い出した。「分からないことを分かっていないと、分からないことは分からない」。一見回りくどいが、この言葉は重要な意味を持つ。私たちは「分かること」と「分からないこと」がはっきりしていると思いがちだが、実は第三の状態がある。「分からないのに、分かっていると思っている状態」だ。この状態では、自分の不足に気付けないため、人は学ぶことができない。
宗教学者である、 ひろさちや氏は道元の『正法眼蔵』の解説で「わからないことがわかるということが悟り」と述べている。成長するにはまず「自分が何を知らないのか」を知る必要がある。
私たちは生成AIを使うと、それらしい回答が得られるため、つい分かった気になり、思考が止まってしまう。しかし生成AIには、あなたが「何を分かっていないか」は分からない。何を疑問に思うかは、あくまで人間側の能力にかかっている。
ここで重要になるのが、「自分の中のもう一人の自分」と対話する力だ。理解したと思った瞬間に「本当に理解しているか」「他者に説明できるか」と自問する。この内面的な対話で、「理解している部分」「曖昧な部分」「まったく分かっていない部分」という地図が頭の中に描かれていく。そのときはじめて、生成AIは本当に役立つ道具となる。
逆に、自分の理解状態を把握できない人にとっては、生成AIは単なる「それらしい答え生成マシン」にすぎない。
これからの時代に必要なのは、知識の量よりも自分が何を理解し、どこが曖昧で、何が分かっていないかを見つけ出す力。「分かった」と思った瞬間に立ち止まり、「本当に分かっているのか」と問いかける「もう一人の自分」を育てること。そうした「自分を観察し、自分と対話する力」ではないだろうか。
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎

勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
1964年生まれ。奄美大島出身。中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了(経済学修士)。ヤンマーにおいて情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業業務全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。2025年より鹿児島大学大学院理工学研究科特任教授。総務省地域情報化アドバイザー、鹿児島県DX推進アドバイザー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。