「この価格では顧客の予算に合わない」「商品が入ってこない」――ここ数カ月の間、PCやサーバーなどのハードウェアを取り扱う販売店からは切実な声が相次いでいる。大手のクラウドや生成AIサービス事業者が過去に例のない勢いで設備投資を強化しているのを受け、メモリーメーカーはデータセンター向け製品に製造ラインを振り向けた。これによって、一般のIT機器向けの部材供給が縮小。メモリーやストレージの価格が連鎖的に高騰し、最終製品の価格や納期にも深刻な影響を与えている。
値上がりの兆候は2025年秋ごろから見えていた。しかし、当時IT機器メーカー各社の説明は「万全の供給体制を整えている」といった慎重な表現に終始していた。顧客の不安をあおるわけにはいかなかったのだろう。ところが、今では誰もが市場の混乱を認めている。「今年のIT投資は見送り」といった事態を避けるためにも、顧客に対して状況をありのままに伝え、早めの投資計画の見直しを勧めたほうがよいと考えるようになったのかもしれない。
市場には現在も、メインメモリー8GBのPCが新製品として流通している。数年使い続けることを考えると、本来は16GB以上を勧めたいところだが、価格次第では妥協せざるを得ないケースもある。オンプレミスで構築する計画だったシステムを、製品価格高騰を理由に、急きょクラウドベースに切り替えるといった話も聞こえてくる。
以前もお伝えしたが、IT業界のダイナミズムは、ちっぽけな存在であっても、優れた技術やアイデアを武器として巨大な勢力を打ち破れることにある。その観点で言えば、世界の計算資源が一部の巨大事業者に集中し、ユーザーの手元のデバイスは、相対的に見ると制約を受け始めているというのは、必ずしも健全な構図ではないような気もする。
ただ、ITの歴史を振り返れば、特定の企業が同じ領域で何十年もトップに君臨し続けることはまれだ。また、アーキテクチャーのトレンドが「集中」と「分散」を周期的に繰り返してきたのはご存じの通りだ。巨大な集中は、やがて新しい分散を生み出す。今はその谷間にあるだけで、資源の偏在を覆す次のテクノロジーは、既に世界のどこかで産声をあげているはずだ。そのような変化こそが、次の商機になる。
週刊BCN 編集長 日高 彰

日高 彰(ひだか あきら)
1979年生まれ。愛知県名古屋市出身。PC情報誌のWebサイトで編集者を務めた後、独立しフリーランス記者となり、IT、エレクトロニクス、通信などの領域で取材・執筆活動を行う。2015年にBCNへ入社し、「週刊BCN」記者、リテールメディア(現「BCN+R」)記者を務める。本紙副編集長を経て、25年1月から現職。