日本マイクロソフトは11月21日、日本ユニシスが提供するオープン勘定系システム「BankVision」を「Microsoft Azure」で構築する「BankVision on Azure」が北國銀行に採用されたと発表した。3社は2021年からの稼働を目指し導入プロジェクトを開始する。同時に北國銀と日本ユニシスが共同でIT子会社を設立し、北國銀の開発力を強化していく。日本ユニシスは今後、Azureを基盤としたデータ連携プラットフォームや金融機能をサービスとして展開するBank as a Service（BaaS）を構築することで、地銀がもつ地域のエコシステム全体の活性化につなげていく考えだ。（銭 君毅）

地方のエコシステム全体のDXを後押し

　マイナス金利政策やキャッシュレスの普及など、銀行を巡る経営環境は大きく変動している。地銀かメガバンクかを問わず各行はこれらの状況に柔軟に対応できる新たなビジネス構造を模索している。北國銀もそのうちの一行で、2018年に新たな中期経営計画を策定し、景気に左右されない収益構造を構築しつつ、地銀として地域内の活性化につながる施策の提供を目指している。中でも「最も基本的で重要な施策として位置付けているのがシステム戦略」と杖村修司・専務取締役は語る。

コスト削減から戦略的投資へ

　具体的には、オンプレミスで稼働している勘定系システムとサブシステム、インターネットバンキングをAzureに移行させ、クラウド上でのデータ連携・分析を可能にする。これにより生産性の向上や運用コストの削減を見込んでいるほか、保守メンテナンスに偏っていた投資を新しい分野へと移し替えることができるようになる。北國銀の杖村専務は「目指すのはシステム戦略をトリガーに新たな経営戦略を実行できるようにすること。これはわれわれだけでなく顧客向けのITシステムに投資していくことでエコシステム全体をモダナイゼーション、トランスメーションしていくことにつながっていく」と強調する。

　北國銀は今回の発表に合わせ新たなSI子会社「デジタルバリュー」を設立。日本ユニシスと日本マイクロソフトもバックアップしていく形で、プロジェクトを加速させる。21年までに勘定系システムのIaaS化、サブシステムの構築を終え、法人向けインターネットバンキングを開始する予定で、24年には勘定系システムのPaaS化とコンテナ化を目指す。コスト削減は約30億円を見込んでいる。

　日本ユニシスは07年からWindows Server、SQL Serverを基盤としたオープン勘定系システムパッケージBankVisionを提供しており、北國銀は導入10行のうちの一行。また、日本ユニシスは北國銀のパートナーとしても活動しており、共同で地域の法人向けにコンサルティングサービスを提供してきた。

　日本ユニシスの葛谷幸司・取締役常務執行役員は「今後、地域金融機関のビジネスモデルは総合コンサルティング業へとシフトしていく。各地域の担い手にサービスを提供していくことで社会課題の解決につなげていきたい」と意気込む。さらに、これまで銀行が持っていたフルバンキングシステムをパッケージング、プラットフォーム化して、オープンAPI公開基盤「Resonatex」を通じて異業種やFinTech事業者へと提供していくことでエコシステムを拡大していく構想だ。

銀行レベルのSLAをクリア

　近年、金融業界ではパブリッククラウド上でシステムを構築する機運が強まっている。直近ではふくおかフィナンシャルグループがネット銀行のシステムインフラに「Google Cloud Platform」を採用した。一方で、こういった事例はネット銀行などの新たなサービスを展開する際に採用されるというケースが多く、オンプレミスの既存インフラをパブリッククラウドにマイグレーションしたのは国内初となる。ミッションクリティカルなインフラが求められるだけに、「勘定系の移行に取り組むにあたり、高水準な可用性や信頼性といった課題が表面化し、これらをクリアするのに数年の時間をかけた」と、日本マイクロソフトの内田聡・執行役員常務サービス事業本部長は語る。

　現在では米マイクロソフト本社からの応援を含め、金融機関のAzure利用を支援する体制として約200人を確保。金融機関向けには、データセンターへの立ち入り監査権や当局監査対応といった特別サービスを用意している。SLAに関しては東西リージョンで冗長化するなどして可用性を高めているという。北國銀の杖村専務は「勘定系のシステムは絶対に止めることができない。われわれは複数部門で議論を重ね、技術、緊急時対応、費用対効果などさまざまな観点から検証した」と強調した。