旅の蜃気楼

夜明け前

2003/11/24 15:38

週刊BCN 2003年11月24日vol.1016掲載

▼11月の初旬、山の上ホテルからタクシーに乗った。帰宅途中なので、気分がほぐれていたのだろう。そのせいか、世間話に花が咲いた。すると、「お客さん、最近は、少し良くなり始めましたよ」。「何がですか」。「お客さんが少しは戻ってきていますよ」。耳を疑うばかりであった。90年代に入って以降、タクシードライバーのぼやきが多くて、閉口したことはあっても、お金が回り始めた、という明るい話が出たことはついぞなかった。まったく驚いた次第である。

▼大手企業の業績発表が明るさをもってきた。長い間、構造的な業績の悪さに苦しんだ松下電器産業もその1つで、業績が上向いてきた。売上高の前年同期比が増加し、営業利益が黒字化してきた。一時中断していた社内報も復活した。久しぶりに、『PaNa』を手にした。10月号の中に、「他社に学ぶ」という記事がある。ここでは、ソニーのQU ALIA部門にスポットを当てている。広報担当に取材した。「QUALIAとはなんぞや!」。

▼ソニーは創業以来、使って楽しい商品、新しいライフスタイルの提案、人々に常に感動を与えることを目指してきた。その開発姿勢の中には、数値や数式では表せない感覚を構成する「質感」がある。QUALIAはその「質感」、つまりソニーは「感動価値」の創造を再び探求するという宣言である。1年前、ソニーと松下は勝ち組と負け組みの代表企業であった。この1年間で逆転した。何をしたのか。何を怠ったのか。復活はいつか。共通することは物づくりに再度こだわり始めた。夜明け前は底冷えがする。(本郷発・笠間 直)
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