BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『出版大崩壊 電子書籍の罠』

2011/05/05 15:27

週刊BCN 2011年05月02日vol.1381掲載

 「元辣腕編集長が実体験を基についに書いた!」という触れ込みの本である。著者は光文社で『女性自身』『カッパ・ブックス』の編集部を経て、光文社ペーパーバックスの編集長を務めた経歴をもつ人物だ。

 このところ、電子出版は是か非かという議論がかまびすしいが、タイトルにあるように、著者は否認の立場をとっている。

 その一方で、出版がデジタル化していく流れは止めようがないということも認めている。若者の“紙離れ”は予想をはるかに超える急速ぶりである。新聞協会の「全国メディア接触・評価調査(2009年度)」によれば、「毎日、新聞を読んでいる人の割合」は20代で32%、2年前と比べて15ポイントも減少している。書店の減少も著しい。01年には2万店以上あった書店は、09年には1万5765店に減ってしまった。

 紙での出版が受難の時代にあって、電子出版は救世主足りえるのか。著者の答えは「ノー」である。まず、根本的な問題として、一般書籍を電子出版しても売れないという事実が厳然としてあることだ。紙ベースの時代には体系が定まっていた著作権や印税についても、電子化の下では問題を複雑化する要因となっている。

 出版社は利益を稼げる仕組みが見出せず、著者は低額な印税に不満を漏らし、デジタルに馴染まない年配者(本を最もよく読む層)は置いてけぼり…。粛々と進む電子出版に、明るい未来はあるのかと考えさせられる。(止水)


『出版大崩壊 電子書籍の罠』
山田 順著 文藝春秋刊(800円+税)
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