旅の蜃気楼

難行苦行の後の楽しみは

2011/07/14 15:38

週刊BCN 2011年07月11日vol.1390掲載

【湯島発】汗がパターの上に滴り落ちる。夏のゴルフとはこんなにも暑いものなのか。顔と腕は、あっという間に真っ黒になる。ただし、左手の手首は真っ白い。そうだったのか。仲間の皆さんは、ゴルフボールを打った後にすぐグローブを手から外しておられた。どうしてなのか不思議だったのだが、日焼けの跡を残さないためだったのか。

▼故あって、ゴルフを二十数年ぶりに再開することになった。62歳のグリーンデビューだ。いやはや、人生は何が起こるかわからない。だから楽しいともいえる。ゴルフは一日がかりのスポーツだから、馴染んだ山へ行くのは当分の間、お預けだ。イヤだイヤだといじけながらゴルフの練習場へ通ううちに、仲間が心配していろいろサポートをしてくれるので、だんだん楽しい気分になってきた。

▼春と秋に恒例の『BCN杯』があるので、次回の秋でデビューとなる──と思っていたら、その前に練習をしましょうとか、試しでグリーンでやりましょうとか、レッスンの中間試験といったあんばいだ。まずは高坂カントリーでスコアは136。起伏があって歩くには楽しいコースだが、初心者があっちこっち打ちながらの歩行は疲れる。それに暑い。ただ暑い。お山は標高が高いから涼しかった。それが懐かしい。

▼これほど暑いと、キューッと泡の出るものが飲みたくなる。湯島にある『岩手屋』に飛び込んだ。この店は、陸前高田の銘酒・酔仙を売る店として有名だ。かれこれ50年、酔仙一筋だ。日本文学者のサイデンステッカーさんも亡くなる直前までこの店で酔仙を呑んでいた。それなのに、名物の樽酒が置いてない。樽のあった棚の横にラベルが貼ってある。『南部開』『あさびらき』『八重桜』『月の輪』。酔仙の復活を主人に尋ねてみた。「目処は立ってねぇ。人生、何があるか分かんねぇよ」。身にしみる言葉だ。(BCN社長・奥田喜久男)

陸前高田の銘酒「酔仙」は酒蔵がすべて流されてしまい、行きつけの店「岩手屋」にも置いていない
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