BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『新書 昭和史 短い戦争と長い平和』

2025/05/30 09:00

週刊BCN 2025年05月26日vol.2060掲載

それぞれの視点でつづる歴史

 昭和から現在までの戦争と平和を、群像劇の手法で描いた著者。政治家や軍人など政策決定者らの思考や言動をたどる歴史書とは違い、市井の人々も含む個人の手記や一次史料の声に耳をすませている。

 例えば、昭和10年ごろの少女向け小説からは、舞台であるアッパーミドル家庭の生活だけでなく、格差や戦争の迫る時代背景が読み取れる。戦争末期、「神風が吹く」と言う同級生に反論した少年は、勤労動員先の工場を外される。憲兵隊の治安情報網がこの程度の生徒の会話にも神経質になっていたと分かる。

 他方で戦後派のテレビマンは、戦争をテーマとするあるドラマに対し、過剰な反戦意識から生まれたステレオタイプの演出だと反発する。それぞれの立場から敗戦を捉える様子の一端が伺え、無数の人生が交差し積み重なって歴史はできるのだと感じさせられる。

 今年は「戦後80年」であり、「昭和100年」でもある。昭和初期に生まれ、少し前に95歳で他界した祖父がどんな時代を生きたのか知りたくて、この本を手にとった。祖父は終戦の年に予科練に入隊し、戦後は小さな織物工場を起こして3人の子どもを育てた。ここに登場するような、過酷な状況の中でも懸命に生きた人々の一人だと思っている。(実)
 


『新書 昭和史 短い戦争と長い平和』
井上寿一 著 
講談社 刊 1430円(税込)
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