プリンタメーカーであるOKIデータ(杉本晴重社長)のグループ会社でLED(発光ダイオード)技術開発会社のOKIデジタルイメージング(ODI、菊地曠社長)は今年4月、生産拠点を東京・八王子市から群馬・高崎市に移転し、生産能力を従来の4倍に増強した。自社製プリンタ用やOEM(相手先ブランドによる生産)供給するプリンタ用LEDヘッドの開発・生産にとどまらず、自動車向けなど、応用分野の事業強化を狙っている。その新しい生産拠点を取材した。

LED工場を八王子市から高崎市に移転。生産能力を4倍に引き上げた
LEDプリンタヘッド、競争加熱
OKIデータは昨年7月、ルネサステクノロジのルネサス東日本セミコンダクタが所有する群馬開発デバイス本部の旧半導体前工程ラインの土地・建物・用役設備を取得した。八王子事業所からこの地へ100人強の人員を移すとともに半導体製造装置などを搬出し、新しい生産拠点として4月から実稼働を開始している。
新生産拠点は、JR高崎駅から車で20分ほどの郊外に位置する高崎市西横手町にある。敷地3521m2の中にある3階建ての建屋は、クリーンルームや実験室、事務所などを含めて9043m2。以前のクリーンルームに比べて面積は約2倍、生産能力は4倍に引き上げることが可能になった。
ODIは2006年9月、半導体を薄膜化したものに、独自のナノ製造技術を用いて材料の分子間力により異なる材料を接合する「エピフィルム・ボンディング技術(EFB)」を実用レベルで量産化することに成功した。このEFB技術を利用し、今年5月にはLEDを多機能素子化した新LEDアレイの開発にも成功している。 同時期に発売されたクラス最薄の新製品、A4モノクロLEDプリンタ「B431dn/B411dn」に初めて搭載した。チップ内の配線数を低減し、チップ幅を22%削減した新LEDアレイの誕生で、小型化・高画質化・高速化を実現している。現在、新拠点では、こうしたLEDアレイなどで生産するLEDプリントヘッドを月に80万本生産している。
ODIが生産増強に踏み切った背景には、これまで同社が主導してきたLEDプリンタヘッドのOEM供給市場などを含め、競合他社に追い上げを許していることが背景にある。09年には、富士ゼロックスがプリンタメーカー大手の某社にOEM供給するなど、プリンタ市場シェアのトップ争いでODIと拮抗するようになった。ODIの谷信之・常務理事は「いかに安く、小さく、大量に量産するか。それができなければ、市場で主導権を握ることができない」と、危機感を抱いている。
このためODIは、他の追随を許さないEFB技術を使ったLEDプリンタヘッドの生産・量産体制を強化する必要があったのだ。EFB技術を生み出した開発責任者の荻原光彦・取締役開発部長は、「ICチップとLEDアレイの融合が第一世代。LEDを多機能素子化した新LEDアレイの開発が1.5世代だとすると、次世代はICチップとLEDアレイを一体形成することだ」と、富士ゼロックスなど競合他社との技術競争は、次世代の争いに移ってくると指摘する。

新型ヘッドは、現行品に比べ大幅に小型化
自動車HUD分野などへ展開加速
ODIが高崎市へ移転して生産増強を図った理由はもう一つある。EFB技術を応用したプリンタ以外の分野を開拓し、量産体制をつくることだ。同社は昨年11月、EFB技術を2次元に展開し、発光率を高める新技術の開発に成功。従来の液晶ディスプレイより消費電力が10分の1で1.1インチのQVGA(320×240ピクセルの解像度)高輝度LEDディスプレイを、世界で初めて開発。まずは、自動車分野への利用を目指す。
高級乗用車には、フロントガラスに透過的に投影して速度を表示する仕組み「ヘッドアップディスプレイ(HUD)」が搭載されている。このタイプでは、ドライバーが前方に向けた視線をそらさずに速度などを確認することができるので安全運転に役立っている。現在のHUDは「LEDをバックライトにして液晶ディスプレイに投影する仕組みなので、コストが高く、高級車にしか搭載されていない」(谷・常務理事)が、同社のQVGA高輝度LEDディスプレイを使えば、安価で簡単な構造で設置が可能になるという。

世界初の高精度LEDディスプレイは自動車分野などへの応用を期待する
同社では、まずは自動車メーカーへの働きかけを強め、HUDのユニット全体の設計から共同で研究を開始し、数年後の実用化を目指している。このため、高崎市への移転を機に、東京・田町の本社にODIの営業担当者を配置し、自動車メーカーを含め、さまざまな領域で応用技術を利用する可能性を探っている。同社のQVGA高輝度ディスプレイなど超小型LEDディスプレイは、携帯電話やスマートフォンなどにも採用が進む可能性があり、この成長分野のビジネス領域を開拓するため開発を加速させる方針で、2~3年後には実用化できる段階に移すことを計画している。(谷畑良胤)