「メイド・イン・ジャパン」が世界を席巻していたのは1980年代まで。中国や韓国、台湾勢が台頭し、日本の製造業はグローバル展開で苦戦を強いられている。近年は、国内の生産拠点の海外移転やサプライチェーンの改革を加速化する動きが目立つ。
他国企業との競争が激化するなか、「メイド・イン・ジャパン」に対する信頼はいまだ根強いが、従来のような神通力はない。これは家電分野で顕著に現れている傾向だ。聯想集団(レノボ)やハイアールといった日本でも名の知られているメーカーだけでなく、まだ日本に進出していない企業も洗練されたデザインを打ち出し、現地で支持を集めている。
丸紅(北京)商業貿易有限公司の菅隆之・金融・物流・信息部長と丸紅インフォテックの天野貞夫社長は、中国・北京で週刊BCNの取材を受け、中国のデジタル家電市場を大いに語ったほか、丸紅グループの中国ビジネスの展望についても言及した。

丸紅(北京)商業貿易有限公司 菅隆之・金融・物流・信息部長
日本勢は「危機感が足りない」
丸紅(北京)商業貿易有限公司の菅隆之・金融・物流・信息部長は、中国・北京に赴任したのが2010年4月で、滞在期間は5か月に満たないが、中国の家電市場をつぶさに観察してきた一人。日本企業が中国大陸を攻めあぐねている現状に危機感を抱く。
──北京に赴任されてから4か月とうかがっています。まだそれほど期間が過ぎていませんが、この短い間に何か変化を感じることはありましたか。
菅 中国の人たちの振舞いはどんどん洗練されてきている印象を受けます。政府は学校教育を強化していますし、その効果が浸透してきたのでしょう。
20代の若者は向上心が非常に強く、それこそチャイナドリームを目指しているようです。裕福になりたいという願望が他国に比べ強いですからね。
成長が著しい中国に対する日本からの投資額はまだまだ小さい。中国全体で900億ドルくらいの海外直接投資(FDI)がなされていますが、そのうちの40億ドルくらいが日本企業からの投資です。日本企業の活躍の場はこのままでは狭くなるでしょう。テレビ売り場を見ても、ソニーやパナソニックなどの売り場は縮小していって、海信(ハイセンス)など地場のメーカーが台頭してきています。
──中国の家電量販店はどのような売り場構成をとっているのでょうか。そのなかで、日本企業の製品の存在感はいかがですか。
菅 家電量販店では、各国メーカーのブランドごとにゾーン分けされています。最近は、中国メーカーのブランドが大きな売り場スペースを占めています。直感的にいえば、日本メーカーは2割以下。中関村(北京市内にある電子製品街。レノボなどIT企業も社屋を構え、中国のシリコンバレーと呼ばれる)では、ソニーと東芝のPCが比較的店頭に並んでいますが、そのほかはほとんど見かけません。
なぜなのか。日本メーカーは、軒並みグローバル進出していても、局地的にみれば市場で戦えていないからです。日本企業がブランディングに苦戦して新興市場で攻めあぐねているなか、中国企業はブランディングを着々と進めている状況が垣間見えます。
意外に頑張っているのが、代理店を増やしている台湾のメーカーです。サムスン電子など韓国メーカーの製品も見かけますが、外資系ではヒューレット・パッカードがPCでかなりのシェアをもっていますし、存在感が大きい。テレビはシャープが唯一頑張っているくらい。あとは、オランダのフィリップスですね。
──中国企業の勢いは凄まじいというわけですね。具体的には、どのような企業が有力企業に挙げられますか。
菅 中国のメーカーは、20・30代の若い社員が自信をもって自社ブランド製品を販売しています。従来は自らを卑下して、外資系メーカーの製品をコピーするような印象がありましたが、現在はそんなことはありません。 エアコンに関しては美的集団、洗濯機などの白物家電は海爾集団(ハイアール)というように、ブランディングで世界に打って出ている中国企業が登場しています。
日本のバッファローやアイ・オー・データ機器のような位置づけの企業としては、愛国者という社名の周辺機器メーカーなどが製品展開しています。F1(フォーミュラ1)のマクラーレンの車体に広告が出ていましたが、最初見た時は何をやっている企業なのか分かりませんでしたよ。PCケースやUSBメモリ、キーボードなどを開発・販売しています。
中国では、海外ブランドを買収することで、一気にグローバル企業になろうとする動きが目立ちますね。ブランディングに成功すればシェアを大きく伸ばすことになるでしょう。
──喩えとして、フランスのエルメス・インターナショナルのような高価格・高付加価値を打ち出せる強力なブランドを築ければよいということでしょうか。
菅 ソニーに限れば、それに近いことができるかもしれません。ですが、「日本メーカーの製品の知名度は世界に根付いている。中国市場の開拓で出遅れているけれども、今からやれば必ず勝てる」という業界人が周囲に結構います。
デジタル家電はコモディティ化が進んで、差異化が難しい状況です。このところ、日本企業が世界に先駆けて開発した技術はほとんどありませんよ。もう後塵を拝してしまっているのに危機感が足りないのではないでしょうか。
──丸紅の中国市場に対するアプローチの進捗状況はいかがですか。
菅 日に日に中国ビジネスの難しさを感じています。“国境”を感じなくなっていますし、差異化する材料がなかなか見つかりませんからね。水が高いところから低いところに流れるような、かつての方程式は成立し得ないという思いを強くしています。現在、当社で考えているのはBPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)事業の強化です。
金融は規制がかかっていて参入できませんが、ロジスティクス業務はサードパーティロジスティクス(3PL)として、物流のオペレーションを請け負って品質を高められる。
物流品質までこだわる企業は当社と一緒にやりましょう、ということが考えられます。
丸紅インフォテック 「メイド・イン・ジャパン」を再考
3PLとして自社ビジネスを伸ばす  |
丸紅インフォテック 天野貞夫社長 |
丸紅インフォテックの天野貞夫社長は、中国を視察して感じた中国のデジタル家電事情と今後のビジネスの可能性について語った。
極論になりますが、PCはエイサーやアスーステックコンピューター、レノボなどのメーカー製品で賄えれば、中国では十分なんですよ。「メイド・イン・ジャパン」は、高価格で高付加価値などというブランドイメージができれば差異化できるでしょうが…。ただ、PCならまだしも日本製のアクセサリなどを中国にもっていってブランディングするのは難しい。
だから、「メイド・イン・ジャパン」を売るとはどういうことなのか考える必要があります。日本メーカーのリーダーたちは腰が引けていますよ。デジタル家電の分野で果たして差異化が図れているのか、中国に来てからますます疑問を感じるようになってきました。
インターネットショッピングの市場規模は急拡大していますし、「メイド・イン・ジャパン」限定のようなサイトをつくって、売れる製品があれば追加していくということを試してみたら販売地域が限定されず、面白いかもしれません。
丸紅グループでは、中国市場でトップブランドを確立している資生堂のロジスティクス業務を請け負っています。サードパーティロジスティクス(3PL)として、商機があるのではないかと考えています。(談)

中関村の家電量販店
露出度は成功のバロメーター 北京の市街地を歩いていると、現地企業やHPといった欧米企業の広告が目立つ。日本メーカーの広告はあまり見かけなかったが、中関村のとある家電量販店ではニコンの広告がでかでかと掲げられていた。もともとカメラは、日本メーカーが圧倒的な販売シェアを占めている市場。街なかで目にとまり、ついカメラに収めた。企業の露出度は、中国事業の成功度を測る一つのバロメーターとなりそうだ。
記者の眼
丸紅の中国ビジネスに注目
丸紅は二十年来、中国の主要都市で不動産開発を手掛けてきた実績をもっている。国内の有力ディストリビュータである丸紅インフォテックの天野社長は、もともと丸紅で開発建設畑を歩んできた人物だけに、不動産開発に明るい。丸紅と連携して、どのような新ビジネスを中国で展開するのか、天野社長の次の一手に期待したい。(信澤健太)