年商50億円未満の中小企業向け会計システム市場に変化の波が押し寄せている。メーカー各社はSaaSへの取り組みを表明。販売店の動きも一部で慌ただしくなってきた。メーカーや販売店の間で温度差はあるが、SaaSへの関心は高い。SaaSは新規導入の後押しとなりそうである。一方で、パッケージとSaaSの導入比率が今後どのように推移していくのか。販売店はもちろん、会計事務所の取り込みが今後の市場動向を左右しそうだ。(文/信澤健太)
figure 1 「勢力」を読む
1位の「勘定奉行」を「弥生会計」が追う展開
中小企業(年商50億円未満)向けの会計システム市場は、リーマン・ショック以降の経済不況から脱して改善傾向にある。ノークリサーチの調査(2010年8月)によれば、オービックビジネスコンサルタント(OBC)の「勘定奉行」が24.3%でトップを走り、2位の弥生の「弥生会計」が21.2%で後を追う展開となっている。この二つのシェアを合計すると、全体の半数近くを占めることになり、中小企業から圧倒的な支持を得ている状況がわかる。3位以下はOSK、ピー・シー・エー(PCA)、NTTデータシステムズなどの製品が入り乱れる混戦摸様。NTTデータシステムズは今後、「SCAW 財務管理システム」ユーザーを後継製品「Biz∫会計」に3、4年かけてアップグレードしていく方針を打ち出している。SaaS提供の動きが一部で活発だが、ノークリサーチの岩上由高・シニアナリストは「中小企業に対する会計のSaaS提供はそれほど売り上げ規模の拡大は期待できない。法人数は多いが単価が低いから」と指摘している。
会計システム製品/サービスのシェア
※年商50億円未満企業への導入実績
figure 2 「販売戦略」を読む
既存ユーザー囲い込み強化の動き
有力な販売チャネルとして、事務機ディーラーとメーカー系販売店が存在する。PCAやOBCは事務機ディーラー経由の販売が大きな割合を占める。家電量販店が主要なチャネルとなっているのは、従業員10名未満の企業がユーザーの87%を占める弥生である。中小企業の場合は、会計事務所が会計システム活用のカギを握っており、TKCとミロク情報サービス(MJS)、日本デジタル研究所(JDL)の3社が会計事務所向けの会計専用機や財務・税務の業務ソフトで強みをもつ。会計システムは、他の基幹系システムに比べて導入率が高く、継続して利用されている。PCAが実施したバージョンアップキャンペーンは、こうした既存ユーザーの囲い込みを狙ったものだ。一方で、企業総数の99.7%を占める従業員20人未満の約366万社は、その半数ほどが手作業で会計処理を行っているという実態がある。マイクロソフトとタッグを組む弥生は、「自計化」率の向上に挑戦。後述する「弥生SaaS(仮称)」は、潜在ユーザーの掘り起こしの一助となりそうだ。
主要メーカーの商流
figure 3 「メーカーのSaaS動向」を読む
会計事務所の取り込みが重要に
PCAは、08年5月に先陣を切ってSaaS事業を開始した。09年に2月には、初期費用が不要の「イニシャル“0”プラン」を発表して業界を驚かせた。「ユーザーの5割以上が新規の導入」という。自前のデータセンター経由でSaaSの再販をしているPCAと異なり、OBCは現在「J-SaaS」に参画。NECネクサソリューションズが独自のクラウド基盤を利用して、OBC製品を利用できるサービスを拡販する動きをみせている。弥生は、インストラクションの「セキュアキーパー4Gates」(「かんたんホスティング for 弥生会計」)と日立情報システムの中小企業向けクラウドサービス「Dougubako」のメニューの一つとして提供。これらは販売店やユーザーがパッケージを購入してASP・SaaSで提供する形をとっている。10年11月19日には、販売店向けに「Windows Azure」を開発基盤とする「弥生SaaS(仮称)」のβ版の提供を開始する予定だ。対照的にパッケージ販売が好調なOSKは、ワークフロー連携などを強みにパッケージの販売攻勢をかける構えだ。なお会計事務所向けでは、アカウンティング・サース・ジャパン(A-SaaS)がSaaSを利用できる顧問先向け無償IDを会員事務所に提供している。このほかにも、JDLが始めたSaaSサービス「JDL IBEX net」がある。会計事務所は中小企業に大きな影響力をもつだけに、小規模企業でSaaS活用の動きが加速化する可能性がある。
figure 4 「販売店のSaaS動向」を読む
事務機ディーラーはSaaS提供に二の足
会計システムのSaaS提供に二の足を踏む事務機ディーラーは少なくない。全国に営業拠点を構えるキヤノンシステムアンドサービスはその一社だ。「中小企業には情報システム担当者が不在のところが多い。SaaSで提供する場合は、設定や構築、運用など細かな指導ができるビジネスモデルにする必要があるだろう」と話す。日本ビジネスコンピュータ(JBCC)も「営業コストがかかる割に見返りが少ない」と慎重な姿勢だ。NECネクサは、今年度に入ってからSaaSパートナーの拡充に注力している。中小ソフトハウスや会計事務所など110社以上の販売店が存在する。現在のユーザーは「奉行21/奉行i」が100社。12年度末までに8000社の獲得を目指している。NECネクサは「中小企業は、会計と給与を合わせて50%以上がSaaSに置き換わる」とみている。会計システムのSaaS提供に前向きな販売店は、イニシャルに頼らないストックビジネスの確立を図っている。「サポートサービスの売上高が現在2割だが、今後2年でこれを半分にまで引き上げたい」(販売店のディー・マネージ)。とはいえ、販売店の多くは、営業の評価制度の見直しや従量月額課金のビジネスモデルへの対応に苦慮している。SaaS提供の動きが一気呵成に広がらない背景の一つには、販売店が抱えるこうした課題が横たわっている。
会計システム製品/サービスの利用形態
※年商50億円未満企業のケース